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イスナの町で(16)

トントン 「…お食事の用意ができました…」 遠慮がちな、それでも突然のノックと呼び掛けに吃驚した俺は、思いっきり腕を突っ張ってルースから離れた。 「はっ、はいっ!すぐ行きますっ!」 俺の返事に、ルースが“チッ”と舌打ちをしたのが聞こえた。 「えっ!?何で?ダメだった!?」 再びルースに抱きしめられたまま尋ねると、耳元で囁かれた… 「このまま霙を俺のものにしようと思っていたのに……邪魔が入った。 返事をしなければそっとしておいてもらえてものを。」 「あっ!ひょっとして、さっきのキリヤの内緒話!?」 ルースは悔しそうに頬を膨らませ、視線を外した。 「だって!呼びに来てくれたし! 俺もお腹空いたし……ルースだってそうだろ? それに…そういうふうになるのは、やっぱり、他人様の家じゃなくて、その…ルースの部屋で、その」 「今すぐ城に帰ろう!」 「そうじゃなくって! ドリナ先生達をおいて帰るつもり!? 病人はどうするの? 最後までちゃんと見届けないと! ルースはこの国の王様だろ?」 むぅ、と膨れっ面のルースがかわいくて笑っていると 「霙は俺のことを『愛してる』と言ったくせに。」 なんて拗ねた。かわいい。 くるくる変わる表情に胸がトキメク。 きゅ、と抱きついて、精一杯背伸びをしてキスをした。 「霙……」 「ルース、ご飯食べに行こう!」 唸りながら身悶えするルースに「ごめんね」と告げて俺から沢山キスをした。 暫くして、やっとご機嫌の直ったルースと仲良く手を繋いで部屋を出た。 「なーんだ。お前達、まだヤってないのか。 てっきり現れないと思ってたのに。」 キリヤに揶揄われて、ルースは不貞腐れている。 「誰かさんが勝手に返事をしたからな。」 「そりゃあ残念なこった。 お妃さんよ、ちゃんと相手してやれよ!」 「なっ!?」 「結婚式には行ってやるから呼べよな。」

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