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刺客(3)
タールファは、城下では知らぬものはない弓の名手だった。
それが彼を犯人だと決めつける証拠のひとつとなった。
何かに秀でるということ、それは素晴らしいことであるのに、彼にとっては仇となったのだろうか。
どんなに弁明しても潔白を訴えても、誰もその言葉を信じようとはしなかった。
それどころか、数々の明確な証拠が無実を打ち消し、また人格者の店主を殺めたタールファを責め立てる声の方が大きく、まともな裁判もされずに刑が確定した。
一体自分の身に何が起きているのか。
誰が自分を陥れようとしているのか。
何のために!?
俺が何をしたというのだ!?
誰かに恨みを買うようなことをした覚えはない。
貧しいながらも懸命に生きている、ただそれだけなのに。
想いはあっても自由にならない身体の父、愚痴も言わず明るく必死で働く母や、まだ独り立ちできない弟や妹達のことを思うとどうしようもなく胸が潰れそうだった。
自分がいなければ家族はたちまち露頭に迷う。
何とかしてここを出なければ。
その思いが余って脱獄しようとして見つかり、異例中の異例ではあったが、正式な手続きをも踏まぬままに、北の塔へ連行されることになった。
タールファは尚も暴れた。
兵士達に意識を失いかけるほどに殴られ、口々に罵倒される。
それでも彼は叫び続けた。
「俺はやっていないっ!離せっ、離してくれっ!」
ボコボコにされ、最早指一本も動かせず絶望の淵に立たされていた。
もう終わりだ。
北の塔に行けば二度と出られない。
父さん、母さん、ごめん。
イシュル、マルカ…家族仲良く助け合って、母さんを頼む。
涙が溢れて止まらない。
家族の顔が浮かんでは消える。
自分があらぬ疑いを掛けられたことで、近所のひと達からどんな扱いを受けているのかを思うと身震いする。
ただでさえ苦しい生活はどうなっているのか。
胸が張り裂けそうだった。
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