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刺客(4)

罪人用の馬車に乗せられて、北の塔へ向かう。 馬車といっても名ばかりで、木で編まれた格子の籠のようなものに入れられ、城下の大通りを進んでいく。 ひゅっ 何処からか石が飛んできて、タールファのこめかみに当たった。 見る間に傷口から一筋鮮血が流れ落ちる。 最初のひとつをきっかけに、罵声と共に四方八方から石つぶてが飛んでくる。 格子の網目は粗くて、簡単に擦り抜けた石は無遠慮にタールファの身体を打ち続ける。 無残にも身体中が傷だらけになっていった。 それでもタールファは胸を張り真っ直ぐ前を見つめていた。 誰が何と言おうと、天に恥じる行為はしていない。 だから、絶対に下を向かない。 たったひとつ残ったプライドだった。 視線の端で、大切な家族を探すけれど、とうとう見つけられなかった。 公の場には出て来れなくなっているのか。 俺のせいで……今生の別れもできぬ。 でも、どうかどうか、幸せになってほしい。 俺の分まで長生きしてほしい。 最後にひと目だけでも会いたかった……母さん…… そんなタールファを見つめる男がいた。 側に控えた従者に何やら耳打ちすると、密やかにその場を立ち去っていった。 全身を赤く染め、苦痛と諦めと悲壮な瞳のタールファが北の塔に着く頃には、辺りは真っ暗になっていた。 いつもなら自ら立ち会う責任者ナルジは所用で不在にしており、出迎えるのは門番のみ。 傷の手当てもされないまま、後ろ手に縛られていた縄がやっと解かれ鉄格子の牢に押し込められた。 底冷えのする堅固な牢屋は、タールファを受け入れてはくれない。無機質な鉄にすら己の存在を否定された気がして、更に落ち込んだ。 ひとりっきりになってやっと、ほおっ…と息を吐いた。 もう、誰にも会えない。 誰とも話せない。 疑いをかけられたまま、静かにここで一生を終えなければならないのだ。

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