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激震(5)

きっと義弟とグルディの息が掛かった者だろう。 舌を噛んで絶命しようとさえしたんだ。簡単に口を割るだろうか。 相当な覚悟とみた。 見返りは何だったんだろう。 金銭?命? あの無機質な瞳に宿った悲しみの色は何だ? キリヤも叫ぶ。 「お妃さん、落ち着け! コイツの口を割らせるのは俺がやろう。 このイスナで刃傷沙汰なんて、あり得ないことをやりやがった罪は重いぞ。 あんたはルースについていてやれ。 意識はなくても番の気は分かるはずだ。それが大きな力になる。 急げ!」 とん、と背中を押され、俺は男を一瞥(いちべつ)すると、一目散に元来た道を走り出した。 ルース、ルース 必ず助けるから 俺の命をあげるから お願い、いつもの笑顔を見せて、俺を抱きしめて 息を切らしてドアの前に辿り着くと、兵士達が道を開けてくれた。 「ルースはっ!?ルースの怪我は!?」 「まだ分かりません。」 「そんな……」 いてもたってもいられず、俺はドアを開けた。 ベッドに横たわるのは、血の気の引いた顔のルース。 「霙様、こちらでもう暫くお待ちを。」 咎められたかと思ったが、用意してくれた椅子に腰掛け、ただひたすらにルースの無事を祈り手術を見守った。 どのくらい時間が過ぎたのだろう…… 「霙様、ルース様のお側にいらして下さい。」 近くまで手招きされた。 ドリナ先生がホッとした顔で伝えてくれた。 「弓矢のようなものが貫通していました。 不幸中の幸いで、上手く心臓と動脈を外れて、変に途中で刺さった状態ではなく突き抜けてしまっていたのと、これがもし1センチでもズレていたら出血が止まらないところでした。 龍王様は本当に運がいい。 ひとつずつ小さな幸運が重なりましたな。 屈強な身体と元々の自己治癒力がずば抜けておられるから、時を待たずに回復されるでしょう。 今は麻酔で眠っておられるが、そのうちに目を覚まされるでしょう。 霙様、ご安心を。」 それを聞いて、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。 安心と心配とごちゃ混ぜになった気持ちが許容範囲を超えて、涙がぽろぽろと零れ落ちてくる。

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