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激震(12)
ガルーダは目の前の男を見つめていた。
彼は先代王から王家に仕え、その信頼も厚かったと聞く。
特に家庭に問題があるとか健康に不安な箇所があるとか、そんなことは耳にしたことがない。
潤沢な私有財産を持ち、筆頭大臣としての重責を担って皆に慕われている。
人格者との専らの評判である。
そんな男がリスクを冒して、グルディのような卑怯な奴と手を組むだろうか。
ガルーダ、どうする?
情に流されてはいけないが、お前は冷静な判断ができるはずだ。
何が真実で、何がそうでないのか。
心を研ぎ澄ませて見極めろ。
第二の自分が問い掛ける。
そして……ガルーダは口を開いた。
「エスティラ殿。あなたを信じていいのですね?
本当にこの国を…ルース様と霙様を…お守り下さるのですね?」
ホッとした表情を浮かべたエスティラは頷いた。
「この老いぼれの命にかけても!
ガルーダ殿、あなたに後悔はさせません。」
緊張から解き放たれたのか、ほおっ…と大きく息を吐いたエスティラは
「実は、あなたに真実を伝えて協力を請うことを迷っておりました。
今、誰もが疑心暗鬼になって誰が味方で誰が敵か分からない状態です。
そんな時に、あなたが私を信じて下さるかどうか…あなたもそうでしょうが、私にとっても大きな賭けでした。
ガルーダ殿。
私はこの国が大好きです。
美しい心を持ったルース様を全力でお支えしたいと思っています。
次世代に繋いでいく美しいものを守らねばならない。
それが私の役目だと思っています。」
感極まったのか、瞳に涙が光っている。
その涙は嘘ではないはず。
これが演技なら、私はまだまだ他人 を見る目が足りないということだ。
万が一謀 られて、この国、またルース様達に何かあったその時には………
「年寄りはどうも涙脆 くなって困る。
ガルーダ殿、また後程参ります。
どうぞ良しなに。」
そっと目尻を拭き、エスティラが出て行った。
その後ろ姿をガルーダはいつまでも見つめていた。
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