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再び、イスナにて(3)
「キリヤ…お前にはどれほど感謝してもしたりないくらいだ。
改めて礼を言う。ありがとう。」
「何だよ、気持ち悪りぃな。
俺達はお妃さんとアンタに助けられたんだ。
これくらい恩返しの一環だと思ってろ。
お妃さんを攫ってきたことは何度でも謝罪するけどな。
それに…龍の国を揺るがす大問題だ。
俺達にとっても……
疑わしきは一掃するに限る。
例えそれが身内であっても、だ。
ルース、アンタにとって何が一番大切なものなのか、それを忘れなければ道を踏み外すことはない。
守るべきもの、繋いでいくもの、見極めろ。」
「俺はもう覚悟を決めている。
大丈夫だ。」
「それならば良い。
あ、忘れていた。レイチェからこれを預かっていたんだ。」
キリヤは薄紫の小花を慣れた手つきで花瓶に生けた。
「伝言付きだ。
『ルース様、早く元気になってね。霙が心配してるよ。』
俺の娘はいい子だろ?自慢の娘だ。
あの子も心底心配している。本当のことを伝えられないのが辛いんだけどな。
ま、片意地張らずにしっかりと養生して、この先どう治めていくか考えておけ。
城には優秀な部下殿達もいるだろうからその繋ぎは任せてくれ。
まぁ、俺達が手を出さなくとも密かにやり取りしてるみたいだけどな。
邪魔して悪かったな。
お妃さんを呼んでくるよ。」
キリヤはひらひらと手を振り笑いながら出て行った。
ふぅ、と大きく息を吐いたルースは、まだ少し痛む傷口に手をやった。
完全に治ったように装ってはいるが、キリヤにはお見通しだったのだろう。
まずは元通りに回復するように努めなければ。
ルースはベッドに横になると目を閉じた。
かちゃり、とドアが開く音と遠慮がちに入ってくる足音が聞こえた。
バニラの甘い匂いが少しする。
霙だ。
霙が戻ってきた。
きっとまたレイチェに請われてアイスクリームを作っていたんだろう。
霙が纏う空気は優しくて柔らかくて甘い。
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