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炙り出し(12)
サリーナは、一輪挿しの白薔薇を見ながら物思いに耽っていた。
突然幸せが降って沸いたようだわ。
こんなことがあっていいのかしら。
しかもお相手はあのエルグ様。
他の侍従達の身の振り方も、きっちり最後まで面倒を見て下さって…みんな喜びに泣いていた。
姉妹のように過ごした娘 達よ、どうか健やかに元気で幸せになってほしい。
父上、私はこのまま幸せになっても良いのでしょうか。
復讐を果たすために自らあの場所へ飛び込んだというのに。
私達が受けた苦しみは一生忘れはしない。
いつか、いつか必ず無念は晴らすと誓ったのに。
…後々、エルグ様に真実が分かった時、私は身分も名前も偽っていたと咎めを受け、捨てられるのではないだろうか。
それならば、今この時にエルグ様にお伝えしておいた方が良いのだろうか。
でも、こんな私を受け入れて下さるのだろうか…この幸せを逃したくない!
けれど…
「…ナ、サリーナ。」
「あっ、はい、エルグ様っ!」
「ぼんやりしてどうしたのだ?
疲れたのなら横になっていれば良いのに。
あなたのご両親から、ご快諾をいただいたというのに、何か気になることでも?
…俺には言えないことか?」
「いいえっ。そうではないのです。
ただ…」
「ただ?」
「……いいえ、何でもありませんわ………余りに幸せ過ぎて…」
「俺達は、今からもっと幸せになるのだ。
あなたに釣り合うように、俺もしっかりせねばな。」
「…エルグ様……私っ、私は…」
エルグは、口籠もり何か言いたげなサリーナに気付くと、彼女を抱き寄せて囁いた。
「どんなあなたでも愛している。
だからどんな小さなことでも俺に伝えてほしい。」
エルグの温もりと言葉は、魔法のように一瞬でサリーナの心を溶かしてしまった。
「…本当に…本当に、どんな私でも愛して下さるのですか?
……真実を知っても?」
「ええ。過去に何があろうと、俺の目の前にいるあなたを信じ愛します。
サリーナ、愛しています。」
サリーナは覚悟を決めた。
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