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炙り出し(14)

エルグは動揺していた。 ここ数日で、彼女を深く知れば知る程その存在が彼にとってこの上なく好ましく、それは愛情という名の感情にすり替わり、埋め尽くされてしまっていた。 誰よりも聡くて情に厚く控えめな、美しい年上の(ひと)。 彼女が身分も名前も偽っていることなど、過去の事件を密かに洗いざらい詳細に調査している時に既に分かっていた。 だからこそターゲットにして、彼女しか知らない証拠を手に入れようと、半ば色仕掛けで近付いたのだから。 そしてそれは、彼の予想以上に短期間で恐ろしいくらいに功を奏した。 だが、彼女に恋愛感情を持った自分を今はっきりと自覚してしまっていたのだ。 彼女がエルグを手に入れて幸せの真っ只中にいるこの時に、決して知られたくはない自らの出生と心の内を愛するエルグに伝えるというのは、どれ程の覚悟を必要としたのか。 エルグは、目の前で声もなく肩を震わせて泣くサリーナ(アルティナ)の細い身体を引き寄せた。 彼女が息を飲むのが感じられた。 「サリーナ…いや、アルティナ。 2人だけの時はそう呼ぼう。 アルティナ、改めて言う。 あなたを心から愛しています。 共にこの国を守り繋げていきたい。 俺にはあなたが必要だ。 …結婚して下さい。」 アルティナは目を見開いてエルグを見た。 「今、今何と仰ったの? あなたを騙していたのも同然なのですよ? 私は、世間で犯罪者と呼ばれる者の娘です。」 「それがどうしたと?何度でも言いますよ。 『心から愛しています。 俺にはあなたが必要だ。 結婚して下さい。』 理解できましたか?」 「エルグ様……」 「あなたの父上の無念を晴らしましょう。 絶対にアイツらの好き勝手にはさせない。 俺はこの国をそしてあなたを必ず守ってみせる。」 熱い抱擁とキスがアルティナを襲った。 溢れる涙を止めることもできず、アルティナは若き龍の熱情に溺れていった。

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