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潜入(11)
「ナガールっ!」
「サラエっ!」
互いの名を呼び、ひし、と抱き合う恋人達。
闇に紛れて侵入してきたのは、ナガールの恋人のサラエだ。
一度は引き裂かれた絆が、再び繋がれた。
ルウルウは、その様子を慈愛の目で暫く眺めていたが、躊躇しながら声を掛けた。
「あの…話をしてもいい?」
2人はルウルウの方を向くと、抱き合ったまま黙って頷いた。
よく見ると、サラエは身長は少し高いけれど、どちらかと言えば女顔だ。それも美人系の。
裏で手を回してもらって、女性として雇ってもらうことができるはず。
いける!
「アシェナ!できる?」
「任せて!」
こういう時のアシェナの動きは早い。すぐに部屋を出て行った。
アシェナは城に来て僅か2日間で、城内の人間関係のパワーバランスや信頼の度合いを全て掌握していた。
その上で“誰に何を頼めば物事が上手く運ぶか”を的確に理解し、それぞれの担当者と仲良くなっていた。
相手の懐に飛び込んですぐに親しくなる、アシェナの特技である。
ましてやラジェの侍従など、成り手がいない時である。
雇う側にすれば美味しい話だ。
数時間後にはサラエの侍従が決まるだろう。
「サラエさん、あなたは“女性侍従”としてここで働いてもらいます。
そうすればナガールと一緒にいて、彼女を守ることができるわ。
女装しなくてはならないけれど…我慢してくれる?」
「そんなこと、お安い御用です!
ナガールのためなら、俺は何でもします!」
「サラエ…」
「ほら、泣かないの!
まずはサラエさんの髪の毛を整えて、化粧をして…服は…そうね…きっとアシェナが手配してくるはずよ。
ちょっと待っててね。」
噂だって、恐らくイスナの者が流したものだろう。
小石を一つずつ水面に投げ込むように、陽動の小さな波紋ができていく。
ルウルウは、自分達が起こし始めた波紋にワクワクしていた。
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