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ルース、動く(3)
「ここは?」
「俺達の隠れ家、と言ったところか。
ルース、これに着替えろ。」
差し出されたのは草臥れた平民の服だった。
キリヤもそれに着替えながら
「そこにミリョンの畑で収穫した物があるだろ?
城内の厨房に届けるフリをしてそのまま城内に潜入する。門番には俺達の仲間がいるからスルーパスなんだけどさ。
あとはガルーダ様の部屋まで行くだけだ。
取り敢えず、お妃さんと合流しろ。
あのひとは放置しておくと何をしでかすか分からないからな…くくっ。
俺はアンタをガルーダ様の元に送り届けたら、エルグ様の元へ向かう。」
「…ずっと思っていたんだが…お前は俺のことを『ルース』とか『アンタ』とか呼び捨てにするくせに、ガルーダやエルグに対しては『様』をつけるんだな。
その扱いの差は何なんだよ。」
「あははっ!ルース、アンタは俺の親友だろ?
親友には『様』なんかつけない。」
『親友』『親友』……いい響きだ…そうか、親友なんだな、俺達は。
満面の笑みで返すキリヤに反論もできず、ルースはもごもごと「分かった。」と答えることしかできなかった。
急いで支度を済ませ、野菜を積んだ荷車を押し進んで行くと、懐かしい城が目の前に現れた。
「ルース、行くぞ!」
普段は通ることのない外界との出入口。
防衛の要はしっかりと機能しているはずだが……
門番のひとりがこちらに気付いて近付いてきた。
「ミリョンの畑から厨房への納品です。
こちらは明細書。事前の届け出の通りです。」
門番はキリヤを見ると頷いた。書類と荷物を確認すると
「よし、間違いない。通って良し。
…守備は上々。気をつけて行け。」
この男は…イスナの民か。
「ありがとうございます。そちらもお気を付けて。」
まるで暗号のような挨拶を交わすと、厨房へと進んだ。
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