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足掻き(3)

アイルがゆっくりと扉を開けると、そこは神域の片隅だった。 眩いばかりの太陽の光が、ガラス越しに差し込んでいる。 それらは壁一面の水晶石に反射して、きらきらと生き物のように躍っていた。 グルディは扉に片手を置くと、その床に足を一歩ゆっくりと踏み出した。 暗闇から急に明るい場所に出たせいか、目眩を起こしそうになり思わず目を瞑り立ち止まった。 そして大きく息を吐き目を開けると、ぐるりと視線を一巡させる。 いつも祈りを捧げ儀式を行ってきた聖域…。 若かりし頃、神官の末席に加えてもらい初めてここに入れた時には、余りの美しさに感動して心臓が止まりそうな程に打ち震えた。 何もかもが美しく神聖で清らかな場所。 それは今の彼にとっては、最早形式だけのものに成り代わっていたけれど。 前神官タルサ・バールドを失脚させ、我が思うがままに振る舞ってきたというのに、あと一歩のところで邪魔が入るとは。 グルディは迷うことなく神壇まで歩を進め、王家代々に伝わる水鏡に手を掛けようとした。 「そこまでだっ!」 神域に大きく響いたその声は…… 「ルース様っ!?何故ここに? 危篤状態ではなかったのか!?」 「残念だな、グルディ。策に溺れたか。 俺はこうして元気に生きてるよ。 お前の悪だくみは全て白日の元に曝された。 言い訳をしようとしても無駄だ。観念しろ。」 「何を仰いますか。 全てはあなたの義弟君(おとうとぎみ)ラジェ様が仕組んだこと。 私には何の関係もありませんよ。 あらぬ疑いを掛けられるとは…笑止千万。 よくよくお調べの上賢明なご判断を。」 「この期に及んでまだそんな嘘を重ねるのか。 いい加減に自分の罪を認めろ!」 「ご冗談を。何処にそんな証拠が? 幾ら国王とはいえ、この龍の国の神官に対してあまりにも無礼な言動。 そちらこそご沙汰をお待ちになった方が良いのでは?」

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