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おあずけ(5)
「そんなこと大声で言わないでよっ!
誰かに聞かれたら恥かしいだろ!?」
ルースは『それが何か?』とでも言いたげに首を傾げた。
「恥ずかしい?
愛し合ってる者同士がそういう話をして何がいけないのだ?」
(ううっ…この価値観のズレは何だよっ…
ルースといいドリナ先生といい、この龍の国のひとは羞恥という言葉を知らないのか!?)
「あのね、人に聞かれたくないし大声で話すような内容じゃないんだってば!
…そういうのは、2人っきりで、その、ひっそりと」
霙の言葉を遮るように突然ルースが立ち上がり、スタスタと部屋から出て行ってしまった。
「あれ?ルース?ルースっ!」
え?怒った?逆ギレ?
どうして良いか分からず固まる霙の元へ、暫くしてルースが戻ってきた。
「人払いをした。これで明日の朝まで誰も近寄らない。
これで良いだろう?」
「そんなこと言ってるんじゃな、んぐっ」
顎を持ち上げられ、早急に唇を奪われた。
唇を吸われ食まれ、熱い吐息で囁かれる。
「…もう、我慢ならんのだ…霙、分かってくれ…負担をかけるようなことはせぬから…
お前の存在を確かめさせてくれ…
霙、愛してる…二度と離れたくない…」
甘えるような懇願に、霙はぶるりと震えた。
そう思っているのはルースだけではない、霙だって同じだ。
イスナで捉えられた時、ルースに対する気持ちにはっきりと気付いた。
ルースが自分を庇って生死の境を彷徨った時には、生きた心地がしなかった。
グルディの企みを知った時にも、ルースのそして竜の国の役に立ちたいと、それだけを思った。
俺は、俺は…この男に恋をして…愛してしまった…
胸の奥から湧き上がる思いに後押しされるように、霙は両手でルースの頬を包み込むと、その唇に自ら口付けた。
数秒後口付けを解き俯く霙の耳は、真っ赤に染まっていた。
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