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幸せに満ちる国(4)

広間に向かう途中、俺の手を引くルースにこっそりと尋ねた。 「俺は何をすればいいの?」 「にっこり微笑んで頷いていればいい。」 と、こともなげに言われた。 ふーん、何も言わずに笑って座っていればいいんだ、楽勝楽勝、と思っていたら、それがとんでもなかった。 対に並んだ壇上の椅子に座り、招待客の祝福を次々に受けていく。 延々と続くひとの列。 まずは親交のある国々の国王クラスや重鎮達、それがやっと終わったと思ったら、今度は龍の国のひと達が続く。 今日はお祝いで特別に王宮に入れるということで、ひっきりなしに訪れているのだ。 微笑んで、と言われて、最初はそれで良かった。 お祝いの言上を述べるひと達に、ただ頷いて微笑むだけだもん。言葉は発さなくていいから、人間界のブラック営業より楽チンだと思っていたのだ。 でも、段々時間が経つにつれて頬が引き攣り、筋肉が死んでくる。 張り付いた笑顔になっているのでは? 俺は『見られる』という行為は、それだけで拷問に近いものだと知った。 チラリとルースを盗み見ると、慈悲深い寛容な笑みを浮かべている。その態度も余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だ。 そうだ…ルースはこの国の王様だ。 生まれた時から、誰かに見られることには慣れていて、それが当たり前だ。 俺とは違う。 俺は相手を全く知らないけれど、相手は俺のことを『異世界からやってきた国王のお妃様』だと知っている。 この国に来てから俺がやらかした行動の数々は、勿論皆に知れ渡っている。 個人情報モロバレじゃん。 これが所謂有名税とでも言うやつなのか。 はぁ、ちょっと疲れちゃったな…お腹空いた… 思わず、ふぅ、とため息が漏れた。 その小さな吐息にルースが反応した。 「皆の者、すまぬ。 我らは少し休息を貰うぞ。暫く席を外す。」

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