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幸せに満ちる国(10)

「本来は信頼する直近にさえ伝えるな、と言われてるそうだけれど…ガルーダは『前王から頼まれた』と言っていた。 伝えないまま代替わりしてその上、俺に万が一のことがあった時に困る、と思って伝えたのだろう。 前王はひょっとして、グルディやラジェのことを予見していたのかもしれん… 聡いガルーダには隠し事などできないからな。それに彼なら何もかも安心して委ねることができる。 ここも、全ての手配を秘密裏にひとりで整えてくれたのだ。」 「そうだったんだ…ガルーダなら何でも相談できるし……王様も色々と大変なんだね。」 「…お前の運命を変えてしまったこと…俺と結婚したことを後悔しているか?」 悲しげな声。 ルースの身体が少し震えているようだ。 まーた“後悔”なんて言ってる。何度伝えたら分かってくれるのかな。仕方がないひと。 俺は首を横に振って答えた。 「後悔?………するとしたら…」 ルースの喉が、ごくりと鳴った。 「ルースのことをすーーーっごく愛しちゃったことかなぁ…へへっ、んっ」 横抱きにされたまま、唇を押し付けられた。 犬のように唇をぺろぺろと舐められ、食まれて、ルースの首に絡めた腕に思わず力が入って、自分から求める体勢になってしまう。 暫くして息が続かなくなり、2人同時に離れて、鼻先をつけたままくすくす笑った。 大理石の壁に、蝋燭の炎がゆらゆらと揺らめいて反射している。 微かに水の音がしているのは何だろう。 「ルース、水の音がする…」 「地下から温泉を汲み上げてきているんだ。 それぞれの部屋に引き入れている水路の源流らしい。 食べ物も、そちらの部屋に存分に用意されている。 必要なものは全て揃っているから、何も心配はいらない。」 ルースは天蓋のカーテンを(くぐ)り、俺をそっとベッドに横たえると、唇に人差し指を当てた。 「霙、お喋りはその辺で…早くお前を堪能させてくれ…」 お腹の奥が、キュッと疼いた。

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