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SS:拝啓 義兄上様(2)
その時、ガチャリと外側の二重扉が開く音がして、誰かが入ってきた。
ラジェは慌てて目と頬を擦って涙を拭き、居住まいを正した。
「ラジェ様、霙様から荷物が届いていますよ。」
鉄格子の外から聞こえた優しい声音の大男は、北の塔の管理者、ナルジだった。
いくら罪人 とはいえ、ラジェは王家の血を引く者。
あの事件の後、己の罪を恥じ蘇った良心の呵責に耐えかねて命を捨てようとまでしたラジェをぞんざいに扱うことはできずに、相応の扱いをしてくれていた。
「…霙様から?…先日、義兄上 様から毛布を届けていただいたばかりなのに……何だろう……受け取っても良いのだろうか?」
「勿論ですよ。
『お嫌でなければ是非に』
と伝言を承っていますから。」
無骨な大きな手から、ラジェはそっとそれを受け取った。
この小箱に…何が入ってるのだろう…
ラジェはドキドキしながら、震える手で丁寧に封を切った。
「あ……」
中から出て来たのは、美しい透かし模様の入った便箋と揃いの封筒が数種。
ラジェがいつも使っていたのと同じ種類のペンとインク。
そして、龍の王家の紋章が刻印されたスタンプと赤いワックスが数本。
「ナルジ、これは……」
ラジェは思わずそれらを抱きしめた。
尋ねる声が震えている。
「霙様がルース様に相談されて、一緒にお選びになったそうです。」
「…でも、でもこのスタンプは…」
「ルース様もご承知のこと。
では、私はこれにて。」
ひとり残されたラジェは、贈り物を抱きしめその場に蹲ったまま動けなかった。
後から後から、涙が滂沱と流れ落ちる。
小さな嗚咽はやがて号泣となった。
「…ルース義兄 様…ううっ、うわっ、うぐっ…うわーーっ」
後悔や懺悔や思慕……あらゆる感情がラジェを襲っていた。
これらの思いを丸ごと抱えて、その命が燃え尽きるその日まで、生きて、ひたすらに生きていかなければならない。
どんなに悔やんでも時は戻らない。犯した罪も消えない。
ナルジは、その悲痛な慟哭を扉にもたれて聞いていた。
その目に光るものがあったことを誰も知らない。
了
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