186 / 191
SS:我が心奪いし君〜ナルジの回想〜(1)
初めて見た瞬間、雷に打たれたかと思った。
空を飛んでいる時、偶に掠ったりすることもあるけど、そんなもんの比じゃない。
見目麗しいその姿を見たその時に、恋という名の電流が身体を貫いたのだった。
あの日、謁見の間に向かっていた俺は、近道をしようといつもは通らない通路を歩いていた。
遠くから美しく煌めく緑色の光が見てとれた。あれは、何だ?まさか妖精?いや…ひとだ。
巨体の俺とすれ違うには、少し幅が狭い廊下だった。
俺を視界に捉えると、口元に微笑みを浮かべた君は、腰まである緑色の美しい髪を風に揺めかせながら、すっと端に寄って道を空けてくれた。
「あっ、かたじけない。ありがとう。」
「どういたしまして。」
軽く会釈をして去って行く後ろ姿をずっと見えなくなるまで見送った。
今まで嗅いだことのない甘い残り香が、鼻先を擽っていつまでも薫っている。
その香りを少しでも長く感じたくて、暫くその場を立ち去ることができなかった。
あれは…確か…ルース様の世話役の…ガルーダ、と言ったか……
何と美しい。
俺のような者にも気を遣ってくれる優しさ。
きっともう決まった相手もいるのだろう。
勝手に始まった一目惚れは勝手に終わりを告げた。
しかし、どうしても諦めきれない。
ツテを頼り情報を集め、ガルーダに特定のひとはいないことを突き止めた。
こうなったらアタックするのみ。
絶対に結ばれたい。
仕事の合間を縫って、偶然を装いガルーダに近付いた。
挨拶から始まり、花を捧げては断られる日々が続く。断られても告白付きで花を捧げる。
そのうちに、ガルーダは「花がかわいそうだから」と受け取ってくれるようになった。
「あなたがどうこうという訳ではなく、結婚そのものを考える余裕がないのです。
そんなことより今必死で仕事をしているのです。
ですから、どうか……」
ともだちにシェアしよう!