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2. Here I am
鍵をそっと開けて、静かにドアを閉めた。
この家の住人は夜は11時前に寝てしまう。
帰って来ない俺の事など特に気にしていない
けど、さすがに高校生という身分で日にちを
跨いで帰宅したのを見られたら、小言が始まる。
そんな面倒は避けたいので、静かに階段を登って
自分の部屋にそっと滑り込んだ。
「どこ行ってきたの?」
部屋には明かりがついていて、中学生の弟が
ベッドに座って、ヘッドホンをして
通信ゲームをしていた。
「…友達とカラオケ」
「……ふーん」
弟の直哉 は大して興味なさそうに
相づちだけうって、すぐにゲームの世界に集中した。
「アキ子さん怒ってた?」
「…別に。遅くなるって電話しといたんでしょ?
だから特に気にしてなかったよ」
「…あ、そ」
寝仕度をして布団に入ると体がやっと緩んだ。
ー 今日は色々あった…。
さすがに疲れたな…と思いながら目を閉じた。
すぐに睡魔が襲ってきて、気絶するように
眠りに落ちた。
・
・
「昨日何時に帰ってきたの?」
翌朝、朝食をとりながらアキ子さんに聞かれる。
「11時過ぎくらいかな」
言いながら直哉をチラッと見ると、直哉は知らん顔で
トーストを食べながらテレビを見ていた。
直哉は俺がどんなウソを言っていても気にしない。
無関心だ。
おかげで俺は助かっていた。
「もう少し早く帰れないの?
悪い遊び、したりしてないでしょうね?」
「大丈夫だよ」
アキ子さんはそれ以上つっこんでくることは
なかった。
「じゃぁ、行ってくる」
敏男さんは直哉そっくりの無表情で立ち上がり
部屋を出ていく。
アキ子さんは敏男さんを見送るために
後を追った。
「俺も行こっと」
言いながら俺も立ち上がって、食べ終わった皿を
キッチンへ運んだ。
直哉は俺の事を見ることもなく黙々と
トーストを食べていた。
支度を整えて、外に出ると、あき子さんは庭の植物に
ホースで水を撒いていた。
「今日は早く帰りなさいね」
「はーい」
軽く返事をして飛び出した。
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