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「ユイさ、死神って見たことある?」 「…覚えてない」 「そっか~ それが変なヤツでさ…」 焼きそばパンを食べ終えて、ユイを見たら 隣にいたはずのユイが消えていた。 ー あれ? 「野上?」 不意に名前を呼ばれてそちらの方を見る。 体育館の角に同級生の設楽千里(せんり)が 立っていた。 「あれ1人? 誰かと話してなかった?」 「…いや、1人だけど…」 「そう?…何でこんなとこで1人で 食ってるの?」 「…別に…1人でさっさと食って昼寝したくて」 「そうなんだ、あ、邪魔だった?」 「別に…」 俺がそう言うと設楽は遠慮なく近づいてきて、 さっきまでユイがいた場所に座った。 「なんか用?」 「特になんもないけど…邪魔じゃないんでしょ? 確かに…ここ、静かでいいね」 こいつは社交辞令って言葉を知らんのか…。 設楽千里はお弁当を出して勝手に食べ始めた。 俺はお茶をひとくち飲んで、コンクリートの上に ごろんと仰向けになる。 設楽は俺の横で黙々とお弁当を食べた。 そして、食べ終わるとバックから文庫本を出して 静かに読み始める。 腕を枕にして横を向くと少し離れた場所に ユイが立って、こちらをじっと見ていた。 俺が小さく首を振ると、ユイはうなずいて 何も言わず立ち去った。 「野上」 肩をゆすって起こされた。 「もうチャイムなるよ」 「あ、うん」 ほんの数分だったと思うけど、どっぷり寝てしまった。 思いきり伸びをして、立ち上がる。 設楽も微笑みながら立ち上がって、歩き出した。 ー 変なヤツ… 設楽は家が近所で、小学生の頃はよく一緒に遊んだ。 でも、中学になってからは、会話すらほとんど することは、なくなった。 家柄の違いに気づいてしまったんだ。 設楽の家は地元ではそれなりに大きな眼科で 千里は、そこの次男だった。 うちは貧乏というわけではなかったけれど 小学生の頃のように、気が合えば、楽しければ 誰とでも遊ぶ…。 そんな気持ちだけでは付き合えない、 それくらいの育ちの違いは感じるように なってしまった。

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