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「え?」
千里が弁当を食べる手を止めて、顔を上げた。
「あ、やっぱり迷惑だよな」
「…いや、いいよ」
「え?いいの?」
「うん、泊まった事にすればいいんだよね?」
俺は翌日、千里にアリバイ工作の協力を頼んでいた。
「一緒に試験勉強して、ついでに泊まるって
事にするから、名前だけ貸してほしいんだ
もしバレそうになったら、知らないって
言ってくれていいからさ」
「分かった」
千里は水筒のお茶をひとくち飲んで笑った。
「さんきゅー」
「……彼女とデートとか?」
「…まぁ…そんな感じ」
「ふぅーん、いいな」
「千里は?彼女いないの?モテるだろ」
千里が驚いた顔で俺を見た。
「…え、何?俺なんか変な事言った?」
「いや…俺の名前…覚えてたんだと思って」
「…大げさだな…小学校の頃は
そう呼んでただろ?」
「まぁそうだけど…じゃあ俺もまた晃太って
呼んでいい?」
「お好きにどうぞ」
あらためて聞かれて、何だか照れくさかった。
そんなことで嬉しそうにされるのも。
変な奴だ。こんなに変な奴だっけ?
・
・
学校の後で家に帰り、泊まりの準備をして
アキ子さんに手土産を持たされて家を出る。
電車に乗って死神との待ち合わせ場所に向かった。
死神に指定されたホテルはラブホではなく
ビジネスホテルでもなかった。
外資系の高級ホテル。
いくつものソファーとテーブルが置かれた
広いロビーで、死神はソワソワしながら俺を
待っていた。
ロビーに入ってきた俺を見つけて、片手を上げて
立ち上がり、嬉しそうに笑う。
格好もいつもの黒づくめの死神じゃなかった。
初夏らしい薄い色のサマージャケットにパンツ。
まるでカタログから出てきたような完璧な
コーディネート。
「おしゃれしちゃって…それ
どうしたの?」
開口一番に聞くと、誉められた事を素直に喜んで
顔がフニャッとしまりがなくなる。
「これ…」
男性ファッション誌を手渡され、指差された
ページを見ると、死神と頭から爪先まで
全く同じ服を着ているモデルが載っていた。
俺は思わずプッと吹き出した。
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