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物心ついた時には見えていて “それ”が他の人には見えないんだと気づいてからは 誰にも言わないように気をつけてきた。 気味悪がられるのも、嘘つき野郎と思われるのも どっちも嫌だったから。 死神の存在にそれほど驚かなかったのも そのせいだ。 最初はちょっと変わった死者かと思った。 「害がないって気を許しすぎるのも、おすすめ しないけどね…学校のあの子みたいに」 「……何でも知ってるんだ」 「見てたからね」 「怖っ!ストーカーか!」 「今のところ、君を友達だと思っている みたいだけど、何がきっかけで変わるか 分からないし…あまり近づき過ぎない方が いいよ…」 ひとつの部屋の前で立ち止まり、カードキーを 差し込んだ。 「……うん…分かってる」 背中の後ろでドアがしまる。 しんと静まりかえった部屋に二人きりになったら 急に死神がソワソワしだす。 死神がソワソワするから、俺はソワソワできなく なって、平静を装って部屋を見て回った。 部屋の真ん中にはダブルベッド。 広めに作られた部屋の窓際には1人掛けのソファー がローテーブルを挟んで置かれている。 俺はそのソファーに荷物を置いて、窓の外を見た。 「あ、東京タワーが見える」 「そうだね」 言いながら死神が部屋にあったルームサービスの メニューを持ってくる。 俺はそれをありがとう、と受け取って 中を見た。 「腹減った~ あ、カルボでいいや、あんたは?」 メニューを死神に渡して、アキ子さんに持たされた 手土産をガサガサ開ける。 「俺は…何でもいい…っていうか 見ても、何が何だかよく分かんないし…」 「そうなの?」 「うん」 「じゃあ、ピザも頼んでいい? 半分こしようぜ」 「…うん!」 死神はホッとしたように目尻を下げて笑った。 「ところで、名前何ていうの?」 注文を済まし、二人でソファーに向かい合って 座る。テーブルの上には個包装された焼菓子。 「…名前は…ない」 「そうなの?じゃあ何て呼べばいい?」 「…え?」

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