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「じゃあ、死神はもう現れないの?」
話し終わると、ユイが聞いてくる。
「さあ…? 約束は果たしたしね…」
別れ際、タロウは何も言ってなかった。
バイトに出掛けていく俺に、何度もキスして
送り出した。
支払いとかモロモロ気になる点は多々あったけど
死神だし、どうとでもなるか…。
と、あえて聞いたりもしなかった。
「まあ、とりあえず怖いこともなくて
良かったね!ヤってる最中にやっぱり
連れてかれるとかさ!」
「それ、怖いな…」
「男子高校生が、高級ホテルで素っ裸で変死
ってニュースになるね」
「そうなんなくて良かったよ」
俺はさりげなく本を机にしまって、立ち上がった。
窓を閉めて、戸締まりを始める。
「行くの?」
「うん」
「待たせてるしね」
ユイの声がまた不機嫌になる。
「……また、明日な」
俺がそう言ってバックを持っても
ユイはうつむいたまま返事をしなかった。
俺はため息をついて、そのまま部屋を出ようと
背を向けた。
その時突然肩が重くなった。
ー !?
首だけ動かして後ろを見ると、ユイが
羽交い締めでもするように、俺の背中に
おぶさっていた。
「ユイ…!?」
「イ カ ナ イ デ…」
「…ユイちょっ…苦しい…」
ギリギリと力を込めて俺の体にしがみついて
胸を圧迫される。
同時に針で刺されたような頭痛がして目眩がした。
「 ッユイ…やめ…」
膝をついて、頭を押さえる。
それでもユイの手が緩むことはなかった。
「 それはダメだねぇ 」
不意に聞いたことのある声が背後から聞こえた。
俺とユイしかいなかったはずの教室の中。
ユイの手が緩み束縛から解放された。
振り返ると、教室の教卓の上にタロウが
足を組んで座っていた。
「……タロー?」
タロウはじっとユイを凝視して動かない。
ユイもタロウを睨んだまま、少し後退った。
ゾッとした。ユイのあんな顔見たことない。
憎悪の塊のような顔。
タロウは音もなく教卓から飛び降りて、ユイに
近づきながら無表情で手を伸ばす。
その瞬間、ユイの姿が煙のように掻き消えた。
「何したの!?」
俺はあわててタロウに向かって叫んだ。
ようやくタロウはこちらに顔を向けた。
「何も…。
しようとしたら逃げられた」
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