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俺はホッとして息を吐いた。 ユイが消えたら頭痛も消えた。 立ち上がると、足が震えてフラフラする。 タロウがそれを見て肩を支えに来た。 「ね?危ないって言ったでしょ?」 「タロウ何でここに居るの?」 「たまたまだよ。晃太の顔を見に来たら こんな事に…」 「ユイ…どうして急に…」 「分かんないの?」 「え?」 「ライバルが現れたと思って焦ってるんだ」 「千里の事?」 タロウは黙って頷いた。 「でも…今までも仲いいヤツなんていたのに」 「分かるんだよ。今までと違うって」 「……は?」 「晃太には分からなくてもいいよ…」 「なんだよそれ」 「そんなことよりさ、今日はこれを渡しに 来たんだよ」 タロウがポケットから何か出して、俺の手に渡す。 「?」 鈴のようにコロンと丸い形の、小さなお守りのような 物だった。 手のひらで握ったら隠れてしまうくらいの小さな。 「何?」 「晃太が俺に会いたくなったら それに息を吹きかけて」 「ふー」 「いや、今もう目の前にいるし」 「吹いたらどうなるの?」 「飛んで来るよ」 タロウがいつもの無邪気な顔で笑った。 「あ、そう」 なぜか、ちょっと照れる。 いろいろ聞きたいこともあったけど 今はゆっくりできない。 「ユイ…また戻ってくる?」 「……うん。明日にはまたいつもみたいに ここに居るよ」 「そっか、良かった あんな別れ方…やだったんだ」 タロウは何も言わなかった。 「じゃあ行く」 教室を出ようとして、ふりかえった。 「タロウ助けてくれてありがと…」 タロウの顔が嬉しそうに笑ったのを見て 教室を出た。

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