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6. 5
翌日、いつもの門の前にユイは居なかった。
あの笑顔がいつもの場所にないだけで
ユイはもう戻ってこないんじゃないかと
胸の奥がザワザワした。
でもユイは居た。
授業中何気なく見た校庭の隅。
体育の授業中見上げた校舎の屋上。
階段の踊場…。
ずっと遠巻きにこちらを眺めてた。
どうして近寄って来ないんだろう。
顔も強張って、いつもの無邪気な姿は
見られない。
「どうした?」
サンドイッチを食べながら、ぼんやりしている
俺を見て千里が聞いてくる。
「ん?別に」
「なんか疲れてる?」
「全然」
「そ…」
1日ユイの事が気になって仕方なかった。
早く放課後になってほしい。そう思ってた。
ふと顔をあげると体育館の角に佇む学ラン姿。
“ユイ” 思わず声をあげそうになってこらえた。
「今日晃太のバイト先言っていい?」
「え?」
「いっつも空いてるって言ってたじゃん
勉強しよっかな?コーヒー一杯で長く居たら
怒られそう?」
「…いや、平気だろうけど、今週はテスト前だから
バイト入れてないんだ
アキ子さんとの約束でさ」
「あ、そうなんだ」
俺たちの会話が聞こえているのか、いないのか。
ユイはずっとこちらを悲しそうな目で見つめている。
ー なんだよ…幽霊みたいな顔しちゃって
いつもなら、むくれた顔で睨んで…
後でご機嫌とらなきゃなって…そんな風に
思うだけなのに。
そんな泣いてるみたいな顔されたら胸が痛い。
「晃太?誰かいた?」
「え?何で?」
千里も俺の見ていた方をキョロキョロと
見つめる。
「そっちばっかり見てるから」
「……そうだった?…」
ほんの少し目を離したらユイは消えていた。
「今日バイトないなら
またファミレスで勉強する?」
「……ゴメン…今日はちょっと…」
「そっか…いや、気にしないで」
それから千里は文庫本を出して
いつものように静かに読み始めた。
なんだか気まずくなって、俺はごろんと横になって
寝たふりをした。
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