36 / 140

7. 明日へと…

放課後誰も居なくなった教室でユイを待った。 文庫本をとりあえず出してみたものの、読む気に なれず、机の上に置いたまま。 校庭から聞こえてくる野球部や、陸上部の元気な 声に気をとられていたら 「帰らないの?」 小さな声が教室の隅から聞こえてきた。 「待ってたんだよ」 笑って声のした方を見ると、相変わらず 悲しそうな顔のユイが立っていた。 「そんな隅っこにいるなよ。幽霊みたいじゃん」 「…幽霊だよ」 「冗談言ったのに…笑えよ。 …何で近くに来ないの?」 「晃太…怒ってないの?」 「昨日の事なら怒ってないよ。 ビックリはしたけど…」 ユイが少しだけ前に出た。 「昨日…死神…俺を消そうとしてた…」 「……消す?」 ユイが脅えるように辺りを見回す。 「強制的にあっちの世界へ…」 あっちの世界とは何だろう。 説明されても理解できるかわからない。 俺は死んでないし…。 でもきっと、行ったら戻れない世界なんだろうと 感じた。 「タロ……死神には…そんな 特別な力があるの?」 「本当はよく分からない、でも昨日感じたんだ 消し飛ばされるような強い力… 真っ暗で何にも見えない、完全な闇を背中に 背負ってた」 「……」 「思い出したよ。死んだときに死神に会ったこと 昨日会ったアイツとは違うヤツだったけど 同じ気配がした」 「なぜ死んだときに連れてかれなかったの?」 「俺は自殺だから」 その言葉を聞いたとき、他の音が遠退いて 消えたみたいだった。 賑やかに感じた校庭からの声も 廊下を歩く生徒たちの足音も…。 「自殺者はすぐには連れていかれない 酬いを受けるため別のドアに入るんだ」 「別のドア?」 「死者は死神に案内されて決別の部屋に 行くんだよ。そこで全てを忘れてから転生する ためのドアを開くんだ。 でも自殺したらそのドアは現れない。 自殺という罪を償うためのドアに入らなきゃ いけない。 でも…俺はそこに入らなかった…逃げたんだ」

ともだちにシェアしよう!