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「最悪……」 会ったこともない美術教師に殺意まで感じた。 「で、本当にワケわかんなくなっちゃって 先生に一生後悔させたくて。 一生俺を忘れないように最高の嫌がらせを してやろうと思って 先生のマンションの屋上から飛び降りて やったんだ」 「……ユイ…」 ー 壮絶…… 「………病んでたな」 「うん…その当時はまだ、今ほどゲイに 人権なんてなかったし…高校を出たばかりで まだまだ何も知らないガキだったから 先生に捨てられたら生きていけないなんて 本気で思ったんだよ」 「…そんなに辛い思いをしたのに 忘れたくなかったの? どうして悲しい思い出がいっぱいの学校に 縛られてるの?」 「……悲しい思い出なんてここにはないんだ 幸せだったんだ…学校で…ここだけで 会ってた時は…」 「…バカだな」 「……うん」 「そいつ今まだ生きてる? 俺が代わりにぶん殴りに行ってやろうか?」 「ふふ…ありがと… でも、知らないし、もうどうでもいいんだ 俺はずっと繰り返される思い出の中で 漂って、それで幸せだった。 でも、急に目の前に暖かい光の固まりが現れて それが俺に語りかけてきたんだ 何でいつもここに居るの?って」 「それって…」 「うん。晃太が初めてだった。話しかけてきたの それまでずっと夜みたいに暗くて、怖かった。 晃太は 居るとホタルみたいにポッと明るくて 見つけるとホッとした」 「そっか…」 「それまでは、美術の準備室にばかりいた 楽しかった思い出と一緒に… でも、晃太と話すようになってからは 晃太を探すようになった 少しずつ…先生の事を忘れて…」 じっと見つめあった。 俺は何も言葉にできずユイの言葉を待った。 「さっき、もうどうでもいいって言ったでしょ? その通り、先生の事はもういいんだ 俺、先生より晃太がほしくなっちゃったんだ」 気づけばユイは教室の真ん中くらいまで 出て来てじっと俺を見ている。 でも、その顔は昨日とは違っていて とても優しい顔だった。 だから怖さなんてなかった。 「……ユイ…行くの?」

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