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8. 2
「とりあえず座れる所があればいいかって」
「他の事はしっかりしてるのに
何で部屋だけこうなるかな」
雑談をしながら教科書を出す
「炭酸?お茶?」
「炭酸」
千里が氷の入ったグラスに、ダバダバと
コーラを2人分注ぐ。
「じゃぁ始めますかね」
「おう、今回
国語くらいは千里に勝てそうだな」
「お、言ったな」
「負けないと思ってる?」
「はは、思ってないよ。
小学校の時は成績変わんなかったじゃん
ってゆうか、晃太勉強できる子ってイメージ
だったけどな…」
「………まぁ、そうだったかもな」
千里の言葉に、昔を思い出して笑った。
勉強は嫌いじゃなかった。
両親を亡くして、親戚に引き取られ、子供ながらに
いい子でいなければ、と、さらに勉強を頑張った。
最初はとても誉めてもらえたし、100点をとれば
本当に喜んでくれていたと思う。
でも、ある時からそれを喜んでくれなくなった。
誉めてはもらえても、以前のように満面の
笑顔は見れなくなった。
弟の直哉が小学校に上がって、勉強が本格的に
なった頃だ。
直哉はよくできる子だった。
成績だって悪くないし、頑張ってもいた。
でも、いつも俺の方が勝ってしまった。
それが続くと、アキ子さんの顔が曇りだした。
ー そうか、直哉より出来てはいけないんだ
その時悟った。
できないのはダメだ。でも出来すぎてもダメだ。
俺は頑張るのをやめた。
平均以上であれば迷惑はかけない。
直哉も気持ちよく生活できる。
養子の子として、正しい立ち位置を見つけた。
2時間ほど集中して勉強し、夕食にピザを頼もう
という事になった。
千里の父親は今日は病院の方に泊まりらしい。
「あれ?兄さんは?」
「ん?言ってなかった?兄貴は今留学中だよ
アメリカ」
「カッコいい~」
「まぁ、そんなわけで誰も居ないから
気楽にくつろいでよ」
そう言われてみればそうだ。
このデカい家に二人きり…。
「ピザくる前にシャワー浴びる?」
「そうだな…借りようかな
一緒に入る?」
「……はい?」
千里が驚いた顔で俺を見た。
「時間短縮になるかと思って…」
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