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9. 君が命ずなら
「なんで呼んでくれないの?」
テスト中に突然タロウは現れた。
当然皆には見えていない。
皆に見えていないからやりたい放題
言いたい放題だ。
俺は英語のテストを終わらせていて、
空欄になってる問題をもう一度眺めてた。
タロウはゆっくりと教室の中を歩き回り
他の生徒の答案をジロジロ見て、くるっと
俺の方を見た。
「3-2の答え知りたい?」
俺は回りに怪しまれない程度に首を振った。
ー クソッ余裕でカンニングしやがって!
普段だったら心が折れて、答えを聞いて
しまいそうだ。
でも、今回のテストは我ながら結構頑張った。
一緒に勉強してくれた千里の為にも
実力で勝負したかった。
「いつでも呼んでって言ったのに
晃太、全然 呼んでくれないから来ちゃった」
今度は俺の背中に回って後ろからぎゅっと
しがみついてくる。
「晃太の匂い…」
首筋に顔を埋めて深く息を吸う。
タロウの呼吸や肩を抱く手のひらの感触に
ぞくぞくした。
俺は無言で少し後ろを見て、キッと一瞬だけ
タロウをにらんだ。
タロウは無視して俺を抱く腕にさらに力をこめる。
「晃太とまたホテル行きたい…」
ー コノヤロウ好き勝手しやがって…!
俺はゆっくり手を上げた。
回りの何人かと、監督をしていた教師がそれに
気づいた。
「どうした?」
「終ったんで、トイレ行っていいですか?」
教師は時計を見てあと、10分か、とつぶやいた。
「静かに行けよ」
そう言われて、俺は立ち上がると、教師の所に
答案用紙を出して教室の外に出た。
タロウは嬉しそうに俺の後をついてくる。
「おまえ、いいかげんにしろよ」
小さく低い声で言うと、タロウの顔から
笑みが消えた。
俺は上の階のトイレへ向かった。
上は美術室と図書室があるだけで、テスト中の今
この階には誰も居ないと思われたからだ。
「晃太…怒ってる?」
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