49 / 140
9. 5
最後のテストが終わり終礼が終わり、帰りの準備を
していると、千里が教室に現れた。
「これからテストの打ち上げしない?」
俺の席まで来て千里が言った。
「…今日はちょっと無理なんだ。
夏休み入ってからやろうぜ」
「…そっか、そうだね」
「ゴメンね」
千里は笑顔で首を振った。
門まで千里と、今日のテストの答え合わせを
しながら一緒に帰り、門の前で別々の方向に
別れた。
制服だし…1度帰って着替えた方がいいような
気がしたけど、面倒だし、相手は死神だ。
ちょっとくらい誰かに見られたりしても
揉み消すのは簡単だと思えて、気が緩んでいた。
苦手な地下鉄…。
地下へと続く狭い階段の前で一呼吸おいて
視線を前方に固定して駆け降りた。
ホームには明らかに人ではない者が何体か
見えたけど、むこうが俺を気にしないなら
こちらもひたすら見えないフリだ。
携帯の画面を凝視して意識的に視線を反らす。
その中で1人…俺をほっといてくれない者がいる。
頭から爪先まで真っ暗な影のようで、ギリギリ
人の形を保っている。
それがジッとこちらを見ていた。
ー やばそうだな…
影の中に鋭い眼球がはりついていて
長い足をゆっくり動かして
少しずつこちらに近づいてきている。
完全に目をつけられたな、と内心で思いながら
気づかないフリをし続けた。
ちょうどホームに電車が入って来て、俺は思わず
電車から離れた。
突き飛ばされたりしたらたまらない。
影はそのままゆっくり俺の後ろに立ち
今来た電車に一緒に乗り込んだ。
ー あぁ人に憑くタイプだ…
面倒な事になったなと、思った俺はポケットの中の
お守りを手の中に握って取り出した。
咳払いでもするように、手の中に握った
お守りに息を吹きかける。
少し間を置いて、辺りを見回した。
ー アレ?
タロウが来ない。
もう一度吹いてもタロウは現れなかった。
ー 何で?
来ないと思うと急に動悸が激しくなる。
バーを握る手に自然と力がこもった。
「見えてるんでしょ」
影がざらざらした声で耳元で語りかけてきて
お決まりの耳鳴りが始まる。
鳴り止まないキーンという音と共に
影は話し続けた。
「私がどうして死んだのか知りたい?
知りたいでしょう?」
ともだちにシェアしよう!