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すごい頭痛の中、停まった駅を数えた。 タロウと待ち合わせをした駅まで、あと2つ。 降りる時だけは気を付けよう。 だってそのまま反対側のホームに引きずられる かもしれない。 改札にはタロウが待ってるはずだ。 あと少し…あと少し…。 それにしてもどうしてタロウは来ないのか。 後でめちゃくちゃ文句を言ってやろう…。 「私、淋しがりやなの 1人きりはイヤよ… ほら、見て…あの人もそうみたい…」 言われるまま電車の最後方を見ると、 スプラッター状態の男が、まるでゾンビのような 動きで近づいて来ていた。 ー 見なきゃよかった…。 俺は電車のドアに額をくっつけるようにして暗い 外を眺めた。 正直 頭を上げているのもキツい。 でもぶっ倒れる訳にはいかない。 意識なんて飛ばしたら、コイツらにいいように されてしまう。 永遠のように長く思えた時間も、もうすぐ終る。 地下鉄のドアが開いて、俺は逃げるように 改札へ向かった。 恐ろしくて振り向く事もできない。 ゾンビから吐き気がするような異臭がして 振り返らなくても、後をついてきている事は 分かった。 改札の前には見慣れた人懐っこい笑顔が 待っていた。 俺の姿を見て嬉しそうに笑う。 でもそれは一瞬だった。 タロウはすぐに表情を無くして俺を見て 何か口の中でつぶやいたように見えた。 「…アッ」 小さな悲鳴のような声が聞こえた気がして 振り返ると、もう死者の姿はなかった。 改札を出て飛び付くようにタロウの胸に 倒れこむ。 回りを歩いていた客が驚いたようにこちらを チラチラ見たけれど、どうでもいいくらい 気分が悪かった。 そして、タロウを見たら心の底からホッとして 力が抜けてしまったんだ。 「ゴメンね…晃太。キツかったね」 タロウが俺を抱えるようにして呟いた。 「…タロウ…呼んだのに…何で来ないの」 「呼んだの?ゴメン! あれ、人の体の時には使えないんだ!」 「………ばか…」 気づくと頭痛は消えていて あのまとわりついてくるような異臭もない。 タロウの柔らかい石鹸のような匂いが 俺を包んだ。 「殺されるんじゃないかと思ったんだよ」 タロウをにらんで嫌みを言った。

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