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10. 刹那の夢

まもなく始まった夏休み。 俺はバイトと遊びに明け暮れた。 千里とも買い物をしたり、映画に行ったりして。 そして、2、3日に1度はタロウのマンションへ 行って、セックスに夢中になった。 実体があっても無くても、タロウとのセックスは 気持ちよくて全然飽きなかった。 それどころかやる度に肌が合ってくるような 気がして、俺は本当にヤバいな、と心の底の方で 思っていた。 この先タロウ以外のヤツとヤってる自分が 想像できなくなっていた。 「今度さ、花火大会あるんだよね?」 バイトの後でタロウのマンションに上がり込んで ゴムもつけずに3回やったあと 心地よい気だるさを纏ったまま、暗い部屋で キングサイズのベッドで抱き合って、俺が一人言 みたいにつぶやいた。 「うん」 「このベランダからよく見えるんだって タロウ知ってた?」 「ううん」 「やっぱりね… その日来るから…2人でここで見ようよ」 俺を後ろから抱き締めていたタロウが 俺の肩をグッと引いて、ほとんど仰向けにされ タロウの顔が俺を覗きこんだ。 「いいの?」 真っ直ぐ目を見て聞いてくる。 「いいの?の、意味が分かんない せっかく人ごみに行かなくても 見れるんだから、ここで見たいでしょ」 いいの?って聞くのはむしろこっちだ。 「だって、そういうのって恋人とか 仲のいい友達とかと行くんじゃない?」 「……まあ、そうかもね でも俺、人ごみ苦手だしあんまり行きたいと 思わないから…ここは場所がいいから言った だけだよ」 「じゃぁここがあって良かったぁ」 タロウが嬉しそうにぎゅっとしがみついて 俺に足まで巻き付けて喜ぶ。 ただ花火を一緒に見ようって言っただけなのに こんなに喜ぶなんて… タロウは俺の事が好きで、いつも絶対服従で 時々それが憐れになる。 俺はそれに返せるものがないから。 でも俺に会うといつもとても嬉しそうで 会うだけで幸せそうな顔で笑うから 俺が“会ってやってる”ような気になってくるのだ。

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