61 / 140
10. 9
「…ない…」
「そうだと思ったよ」
「ごめん…何にも考えなしで…」
「いいって、普通考えないし」
衣類を直して千里がまた俺の隣に寝転んだ。
「…泊まってく?」
「いや、遅くなるけど帰るって
アキ子さんに言っちゃってるから
もう少し休んだら帰るよ」
「そっか…」
嘘じゃない。本当に今日は
遅くなっても帰る予定だった。
「晃太…また今度リベンジしていい…?」
「…そのうちね」
次はない。
今日あったことは記憶から消してもらう。
明日…タロウが元の死神に戻ったら…。
「晃太…」
ぼんやりしている俺の頬を千里が捕まえて
そっと唇を重ねた。
レースのカーテンの向こうに、月が見えた。
俺をそっと抱きしめる千里の肩ごしに
それをぼんやり眺めて、今日見るはずだった
花火と、タロウの事を思った。
ともだちにシェアしよう!