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11.あなたでいっぱい ※
千里が眠りに落ちてから家を出た。
湿度が低い1日だったせいか、夜が深くなったら
夜風が冷たく感じる。
駅前は人もまばらだった。
もう最終の上りはとっくに行ってしまったから
当然だ。
駅前を通りすぎて、家へ向かう。
歩いていたら、お腹が鳴った。
そうだ、夜何も食べてない…。
駅前のコンビニに寄ろう、
そう思って駅まで引き返した。
それなのに俺は、何を思ったか
駅前で客待ちをしていたタクシーを見つけると
迷うことなく、それに乗り込んで
タロウのマンションへと行き先を告げていた。
・
・
鍵は持ってる。オートロックを抜けて
エレベーターに乗って、自然と早歩きで
部屋の前まで行き、インターホンも鳴らさず
勝手に部屋のドアを開けた。
「お帰りっ」
ドアの開いた音に気づいたタロウが
顔を輝かせて玄関まで飛び出してくる。
「…ただいま」
俺の罪悪感なんてまるで気にせずに
真っ直ぐ笑うタロウの顔が眩しすぎて直視できず
俺は目を反らして靴を脱いだ。
「ごめんね…一緒に花火見れなくて…」
「…ううん、あれはしょうがないね」
「寂しかった?」
「うん、さみしかった…
今日はもう会えないと思ってた」
全部無邪気に真っ直ぐ答えるタロウが
痛々しいほど可愛い。
部屋まで待てないようで、玄関前で
ぎゅっと抱きしめられた。
「…ごめんね。今日はゴムしないで
好きなだけしていいからね」
「…晃太のエッチ…」
「嬉しそうに言うな」
笑いながら唇がふれ合うだけのキスを繰り返す。
千里の唇よりも薄いけど柔らかい唇。
「彼とセックスしてきたの?」
タロウが今日の学校の出来事でも聞くかのように
普通の顔で聞いてきた。
「……してないよ。何で?」
「知らない匂いがするから…」
「…悪いことはしてきたけど
セックスはしてないよ。シャワーしてくる」
「一緒に入っていい?」
「いいよ。今日はタロウがやりたいこと
全部付き合うね…」
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