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12. 思い出の後先

朝帰りしたことを、アキ子さんに死ぬほど 怒られて、機嫌の悪いアキ子さんが、イチイチ 突っかかってくるので、めんどくさくなった 俺は、昼過ぎに宛もなく家を出た。 ネットカフェに入って、千里にメッセージを 送ろうと携帯を見つめる。 “昨日は悪かったー” いや、それも変だな襲ってきたのはあっちだ…。 “昨日は突然あんな所で会うなんてーー” いや待て、よく考えたらこの後記憶を消すんだ 余計な言葉はいらない…。 結局 “ラーメン食いに行かないか?”とだけ 送った。 千里からは、すぐにOKの返事がきて 近所の公園で待ち合わせすることになった。 それから俺は夕方まで死んだように眠った。 ・ ・ 千里と約束の時間よりも30分以上早く 待ち合わせ場所の公園に着いた。 俺たちの最寄り駅近くにある、小さな公園だ。 まだ 辺りはそれほど暗くもないけれど 公園には誰も居なかった。 ベンチに座ってポケットから、あのお守りを 出して、フーっと息をかける。 「ハイハイ」 声と共に、すぐ隣にタロウが現れる。 表情を変えずにタロウを見てすぐに前を見た。 今のタロウは俺にしか見えない。 耳にイヤホンをつけて携帯で話をしているように 装う。 いつ誰が現れても平気だ。 「もうすぐ千里が来るんだ 朝言った通り、昨日の記憶を消して」 「…………」 「何よ?まだなんかあるの?」 「考えたんだけど…こんなこと… 意味あるのかな?」 「は?」 「昨日の記憶は消せても 気持ちは消せないんだよ? 彼がもし晃太に特別な気持ちを持ってたら いつか、また同じ事になるんじゃないの?」 「……そんな事にはならないよ」 「そうかなぁ… 何で晃太、彼とそんなに距離おきたいの?」 「男だからだろ? おまえとヤるのとは訳が違うんだ」 俺はイライラしてきて、隣に座る タロウを睨んだ。 「俺は良くて彼がダメなのは何で?」 「アイツのこれからの人生 めちゃくちゃにしたくないんだよ!」 俺が少し声を荒げると、タロウは驚いて一瞬だけ 俺を見て、それからクスクス笑い始めた。

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