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12. 3
千里は目が覚めたようにハッとして
軽く頭を振った。
「あ、ゴメンなんかボーッとしてた」
「大丈夫?」
「…うん、熱中症かな?ちょっとクラっとして…」
「暑いし、行こうか?あの店こむし」
「おう!そうだな」
二人で立ち上がって歩き出す。
チラッとタロウの方に視線を送ると
手を振って、行ってらっしゃい と微笑んでいる。
俺は千里に気づかれないよう小さく頷いた。
「俺今日歩いてきちゃったから乗っけて」
「いいよ」
千里が自転車の鍵を開けていると
消えたと思っていたタロウが突然駆け寄ってきて
俺の首に腕を巻き付けた。
え?と驚く俺を無視してタロウが唇を寄せ
俺の頬を唇で柔らかく噛む。
痛くない程度に優しくつままれた感覚は
すぐに離れた。
「またね」
スルッと巻き付いていた手も離れて
タロウの気配は消えた。
「晃太?どうした?」
「いや、何でも…」
ハッとした俺は千里の自転車の後ろに股がった。
回りをもう一度見回したけど、タロウの
姿はもうどこにもなかった。
ー 今のってヤキモチみたいだった…
他の男と出かけていく俺に
ささやかなアピール。
ドキドキして、勝手に顔がにやけた。
同時に昨夜の身体の感覚も甦る。
千里の自転車の後ろで、上の空で会話をしながら
昨夜のタロウの吐息を思い出してた。
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