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「それは…ないと思う」 俺は首をかしげて考えながら言った。 千里は納得行かない顔でコーラを飲む。 「へぇ~ずいぶん信用してるんだ」 「信用というか…俺の事が本当に好きなんだ」 千里はあきれた顔で口をポカーンと開けた。 「他にもそんな相手がいるかどうかは 聞いたこと無いけど、俺の事を好きなのは 嘘じゃないと思う…」 「あ、っそ」 もうほとんど氷だけになったコーラのグラスを ガラガラ音を立ててストローでかき混ぜ 千里が俺から目を反らした。 「だから千里…今の俺はグラグラなんだ…」 ガラガラ、ザクザク千里がかきまぜる グラスを二人でじっと見つめる。 「どういう“気になる”かは自分でも分からないって 言っただろ? 俺、今は心と体がごっちゃごちゃでさ… 千里がもし本気で俺の事を思ってくれてるなら こんな状態のまま、ズルズルおまえと 付き合えない」 ゴメンと頭を下げた。 千里は黙って、まだ氷をいじって唇を噛んでた。 もともと紅い千里のぷっくりした唇が さらに紅く色付く。 「千里はさ、もっと、普通の健全な交際の方が 似合ってるよ」 「は?」 「俺みたいにさ安月給のサラリーマンになる事が 最良で、それ以下にならないように 頑張って生きるような、つまんない人生には 絶対にならないだろうし そんな輝かしい人生にわざわざ汚点をつける ような事、しなくていいん…」 「黙れ!」 声を荒げて千里が俺を睨み付ける。 「……さっきから…勝手なこと…」 グラスを掴む手にぐっと力を入れて、中の氷が カチャカチャ鳴った。 俺は静かに千里の怒りを受け入れようと思った。 しばらく沈黙した後で、千里はグラスを離して 後ろに倒れるように、背もたれに体を預けた。 「…ドラマとかみたいに、コップの水 ぶっかけてやろうと思ったけど… 意外とできないな…」 「…ップ」 俺が笑ったら千里もつられて、口の端だけ笑った。

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