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16. それでも愛しい人
「タロウは生まれ変わったら何になりたい?」
タロウのマンションでテレビを見ながら
聞いてみる。
「何って?人?」
「やっぱり人なのか」
「どうせなら人かな」
「俺は次は犬とか猫とか気楽な生き物がいいな
あ、人に飼ってもらえる前提でね」
「晃太らしいね」
タロウがナッツをつまみながら笑った。
「人間は賢いせいで、いろいろ面倒くさい
俺はもう、人間はいいや植物とかでもいいかも」
「まあ、何になれば1番幸せかは分からないけど
晃太とちゃんと愛し合えるモノになりたい」
「タロウ…」
「いつかは分からないけどさ
何百年とか何千年とかしたらさ
いつか恋愛の対象になる存在で出会えるかな?
その時はさ、ややこしい事何もない異性で、
年齢も同じくらいで…そんな風に会いたいね」
来るかどうかも分からない未来を想像して
タロウがフニャッと笑う。
「そんな日はこないとしても
生まれ変わりたい?」
タロウの目をじっと見ると、タロウも
俺を見つめ返して笑った。
でも何も答えなかった。
「晃太といられて幸せだよ」
質問には答えず、ただニッコリ笑ってそう言った。
俺は不毛だろうと、ややこしかろうと
今のこの時間が幸せならそれでいいんだ。
タロウがいない毎日なんて考えられない。
でも今、タロウの本音が見えてしまった。
やっぱりタロウは今の自分の状態に
満足はしていない。
分かってたはずなのに目の当たりにすると
胸の奥がゾワゾワする。
ー ああ、どうしよう。
俺はやっぱり自分のエゴで
タロウを縛りつけてるんだ
タロウの本当の幸せが何か…考える事から逃げて…。
タロウも一緒にいたいと望んでくれていると
思い込もうとしてた…。
でも…もう、この手の離し方が分からない。
どれ程 気の遠くなるような先でも
リアルな存在になって愛し合う未来を
望んでいる。
ごめんねタロウ。
そんな世界を俺は想像なんてできない。
不確かな存在のタロウでも、一緒にいられる
今の方が幸せなんだ。
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