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「そう言えばさ、千里が大学に行こうなんて 言うんだよ」 「……へぇ…え?行きたくないの?」 「…行きたくない訳じゃないけど 大学行くには大金が必要だから 大した目標もなく行くくらいなら そのお金で1人暮らしして、仕事した方が 俺らしいというか…」 「お金があれば行きたいの?」 「……そりゃ、大学行っといた方が、就職にも 有利にはなるからね。でも大学に行ってやりたい 事もないし、無駄といえば無駄かなって…」 「お金つくってあげようか?」 「へ?」 「そしたら千里君と大学行けるんでしょ? お金くらいだったらどうにでもなるよ」 「………」 タロウは今スゴいことを言っている。 まさに悪魔の囁きだ。 たしかに人の記憶を操作できるタロウにとって 俺1人の学費を作るくらい簡単な事なのかも しれない。 でも…これは…。 「それはやっちゃダメなやつだ…」 「何で?」 「それやられたら俺、一生タロウに依存して 何の努力もしないダメ人間になる… もっと、もっとって…結局全部タロウに頼って そんな自分にいつかウンザリして 死にたくなる」 「はは、大袈裟だな~ でも 死にたくなるのはまずいね」 タロウは呑気に笑って、俺から目を反らした。 「晃太は根が真面目だもんね 勉強とかも、俺を使えばいくらでも ずるして いい点数とれるのにしないし」 「タロウは頼んだら何でもしてくれちゃうって 分かってるからな…でも本当に必要な時は ちゃんと頼るよ」 「うん…」 タロウが両手を広げて少し照れたように笑った 俺も大袈裟に手を広げてからタロウに抱きついた。 そのまま、タロウを枕にするようにソファーに 倒れる。 タロウが子供をあやすように俺の頭をポンポン 撫でて、俺をあまやかす。 「千里君…気まぐれで適当に言ったんじゃないよ 晃太の事を本気で思ってるんだ だから晃太が色んな事情を抱えてるのも 分かってて、誘わずにいられなかったんだよ」

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