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17. 3

タロウが俺を腕の中に隠すようにして じっと影を睨み付けた。 影の言葉を聞いてるようだった。 しばらく にらみ合って、それから少し後に 影は粉々に消し飛んで、その場の空気が ほんの少し軽くなった。 タロウがいつものように追い払ったんだ。 「何て言ってたか 分かった?」 タロウのコートを引っ張る。 「…まぁ大体…」 「何だって?俺の知り合いだった?」 「………お前を覚えてるぞって」 タロウが言いにくそうに目を反らした。 「……え、、怖っ… 誰だよ」 「大した知り合いじゃなさそうだから 気にしなくていいよ。行こ」 「待って、トイレ行けてないんだ」 タロウの腕の中から抜け出して、トイレに 入ろうとすると、タロウが俺の手を引いた。 「一緒に入る?」 「アホか!」 タロウが冗談を言ってごまかそうとしてる。 言いたくないようなヤツ? ー 誰だったんだ…? トイレの後カフェに入って、ゆっくり1時間ほど 休んだ。暖かい飲み物を飲んで冷えていた 体を中から温める。 「さっきのアイツ、出てこなくなったね」 俺の言葉に、あ、うん、と忘れてたような顔を つくってタロウが返す。 「で、何だったの?分かったんでしょ?」 「…知りたい?いい気分にはならないと 思うけど」 「………そう言われると考えちゃうけど… いいよ、言ってよ。気になる」 タロウがココアの入ったカップを置いて 小さくため息を吐く。 「アイツの記憶の断片が見えたよ たぶん、何度か晃太と寝てる」 「え……」 「ウリしてた頃の客じゃない? 細かい事情は分からないけど、ほんの少し前に 自殺してる。 ここに思い入れがあって ここから離れられないんだ。 たまたま現れた晃太を見つけて、記憶が甦って 後をついて歩いてたんだね」 「………誰だ? 自殺なんて…」 「晃太、思い出そうとしなくていいよ 考えないで。呼び寄せちゃう」 「う、うん」 変な汗が止まらない。 いちいち相手の事なんて覚えてない。 でも何度も関係を持った相手は少ない。 考えないようにしようと思っても 勝手に過去の記憶が再生される。 「晃太っ」 ガタッと音をたててタロウが立ち上がった。 そのまま俺の首の後ろを捕まえてグッと 引き寄せられる。

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