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「…キャッ!」 近くに座っていた2人組の女子が、 口を隠しながら、こちらを見て小さな歓声を あげるのが聞こえた。 唇が触れあうギリギリまで タロウが俺の顔を引き寄せていた。 いや、これは…! 角度によってはもう、キスしてるように 見えたんじゃないだろうか? 「……!!っばっか!っか!」 俺は派手な音をたてて立ち上がって 後ろに飛び退いた。 その音と声で、逆に目立ってしまい 店内の客のほとんどがこちらを見る。 ー か、顔が熱い! タロウはポカンと口を開けて、俺の過剰反応に 驚いた顔で固まった。 キスシーンを(してないけど)バッチリ目撃した 女子達は気を利かすように目を反らして 真っ赤な顔で笑い合っている。 俺は恥ずかしさで耐えられなくなって ガサガサ荷物をまとめ、行くぞ!と タロウに言って、店内の誰とも目を合わせずに 逃げるようにカフェを出た。 ズンズン歩く俺の後を、タロウが小走りで 追ってくる。 「待ってよ 晃太!」 「お前、なんて事すんだよ!」 「だって、晃太が考えるのやめないから 忘れさせてやろうと思って」 タロウが悪びれもせず、へへっと笑う。 「やりすぎだ!バカ!」 「えーやってないじゃんギリギリ」 何の反省もないタロウのケロッとした顔が 憎たらしくなって、頭をパコっと叩いた。 「いったぁ!」 タロウが目を丸くして、叩かれた頭を撫でた。 「絶対ゲイカップルだと思われた…」 「別に見ず知らずの誰かに何て思われようと どうだっていいじゃん」 口を尖らせてポソリとこぼす。 俺は立ち止まってタロウを見た。 「え、ごめんね?本気で怒った?」 タロウの顔が不安そうに曇る。 「……いや、違う…そうだよな…」 「………ん?」 タロウにとっては、どこの誰に見られようと 何を思われようと痛くも痒くもないのだ。 それが赤の他人だったらなおさらだ。 何だったらここで抱き合おうとも、タロウは何も 気にしないだろう。 俺が気にするから…俺のためにしないのだ。

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