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17. 5
「…もう忘れた。次何乗る?」
俺の言葉を聞いて、垂れ下がってた耳と尻尾を
ピンと上げるようにタロウの顔が明るくなった。
「あれ!」
遠くに見えてるアトラクションを指差す。
パラシュートのような傘のついた乗り物で
2.3人乗りの小さな篭のような物に立ったまま乗り
上昇下降を何度か繰り返す。
フワリと上ってフワリと降りてくるから
一見怖そうには見えないが、結構高くまで
昇るし、風に煽られて揺れて、地味に怖い。
「めっちゃ綺麗!結構スピード感あるね!」
「動くな!動くな!」
思っていた以上に高く感じて、1番上まで到達した
時は、足が勝手に震えて、俺は目を閉じた。
隣ではタロウが大パノラマの景色に興奮して
騒いでいる。
夕暮れの…いい時間帯に乗った。
ビルがうっすらシルエットになって
遠くの空はピンクとオレンジのグラデーション。
「晃太!見てる? 超 綺麗だよ!」
「…み、見てるっ」
うす目だけど。
遠くを見ないとヤバい。
足がガクガクで。
でも確かに綺麗だ。
ロマンチックな気持ちになれるほど
余裕はないけど。
手すりを握りしめる手にタロウの手が
重ねられ、ニッと笑って俺を見る。
「手くらいなら誰も気づかないよ」
怖かったし、寒いし。
俺も手、繋ぎたかった。
俺も笑い返して、一歩横に、タロウに
体をくっつけた。
「キレイで胸が苦しい…」
1番高い所に昇って、タロウがつぶやく。
パラシュートが頂上でしばらく停止すると
風に不規則に揺られて、乗っている篭が
カチャカチャ鳴った。
タロウの手を、ぎゅっと力いっぱい握る。
「うん、何でだろうね…」
何でキレイなものを見ると胸がじんわり
苦しくなるんだろう。
「嬉しかったり幸せだったりすると
涙が出ちゃうのと一緒じゃない?」
そう言って笑ったタロウの顔が夕陽に照らされて
オレンジ色で、その横顔も景色に負けないほど
綺麗で、俺はきっと一生この瞬間を忘れない
だろうと思った。
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