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19. ひとしずく

家に帰るとすぐに、アキ子さんに声をかけられた。 「ご飯の前にちょっといい? 話したいことがあるの」 「ナニ? いいけど…」 正直、心身ともにぐったりで、この上 めんどくさい話しは聞きたくなかったけど とりあえず了解した。 荷物を整理して、すぐリビングに戻る。 「おまたせ…何?話って」 キッチンに入って、お茶をグラスに注ぐ。 「ここに座って」 アキ子さんがダイニングテーブルに座るように 促してくる。 俺はお茶を入れたグラスを持って、言われた通り そちらに向かうと、テーブルの上に驚く物を 見つけた。 それは 、いつか千里がくれた大学のパンフレット だった。 ー でも、何日も前に捨てたはず… 今さら何で? 「……そ、それ、どうしたの?」 俺が動揺して聞くとアキ子さんはため息を吐いた。 「ここ、行こうと思ってるの?」 「え??いや、まだ全然考えてないよ」 直球で聞かれてますます動揺が激しくなる。 「それはさ、千里が… 千里の志望校なんだよっ」 「……そう、、じゃぁ進路は? どうするか考えてるの?」 「…まだ決めてないよ…だってまだ1年だし… 就職しようかなって…なんとなく思ってる」 「え?どんな仕事?やりたい事でもあるの?」 意外にもアキ子さんは驚いた様子だった。 「逆、特にやりたい事もないから就職で いいかなって… そこそこ安定してる会社なら 職種も、割りと何でもいいかな」 アキ子さんは額に手を当てて、また大きな ため息をつく。 「高卒で働けるとこなんて限られてるし それなら大学行きながら考えたら?」 「え?」 「確かにまだ時間はあるけど、高校の3年間なんて あっという間よ。急に思い立っても間に合わないし 勉強はちゃんとやっとかないとね?」 「でも大学、お金かかるし………」 「やっぱり、気にしてたのね」 「………」 「…ご両親ちゃんと学資保険入ってたのよ それを引き継いでちゃんと続けてる。 残された預金も、できるだけ手をつけず 残してるし、堂々と大学行っていいのよ」 俺は頭が真っ白で、言葉が出なかった。 アキ子さんが俺の事を心配してくれてるなんて 思ってもみなかった。

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