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「もっといろいろ相談してほしいわ あなた何も言わないんだもの 長い一生を決めるかもしれない、大事な 時間なんだからちゃんと相談してね」 言いながらアキ子さんがパンフレットを 俺に渡した。 それから立ち上がって、さぁご飯にしましょ、と 独り言みたいに言いながら、キッチンに入っていく。 「ありがとう…ございます」 アキ子さんはこちらを見ずに夕食の準備を しながら、他人行儀ね、と笑った。 俺はキッチンに入って行って、手伝いながら もう一度言った。 「ありがとう、お母さん」 アキ子さんは驚いて手を止めた。 「びっくりした。急にそんな事言って… …無理しなくていいのよ」 「うん、緊張しちゃった。 特別な時だけ言う事にするよ」 二人で笑いあった。 「あのパンフレット、どこで見つけたの?」 「ああ、あれは、直哉よ」 「…… 直哉?」 「直哉、飯だって」 部屋まで弟を呼びに行く。 直哉はいつものようにベッドに寝そべって マンガを読んでた。 「ハイハイ」 目を会わせず返事をすると、あくびをしながら 立ち上がる。 「大学のパンフレット、何でアキ子さんに 渡したの?俺、捨てたはずだけど」 直哉は長めの前髪の向こうから、俺をチラッと見た。 「別に、いつ親に話すのかって思ってたら 結局なにも言わずに捨ててあったから… 俺が代わりに渡しといたんだよ」 「こんなの 見てただけだし…」 「あ、そ。じゃそう言えば? どうでもいいことなら隠す必要もないのに キモいんだよな~」 「おまえ…言い方っ……可愛くないな~!」 「ハイハイ、そっちこそもう少し 子供らしくしたら?」 自分より子供だと思ってた奴にそんな風に言われて ぐうの音も出ない。 「一応家族なんだから、あんたがあんまり 落ちぶれたら迷惑なんだよ」 直哉はわざと憎たらしい事を言い捨てて 部屋を出ていった。 俺はその直哉の背中に向かって言った。 「分かったよ、ちゃんとするよ。 悪かったな、ご心配おかけしまして」 俺が同じように ひねくれた調子で言うと 直哉は少し振り返って、口の端で笑ってた。

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