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“恋人と別れて”と千里は言った。 おまえが他の男とヤってるの想像したら 吐き気がするんだと。 実際冬休み後半は食欲もなくなって、 吐いてばかりいたと。 「俺を選んで、晃太」 あんな目で、あんな声で言われたら 突き放せない…。 もう一度、タロウに記憶を消してもらおうか でも、そんなに何度も大丈夫だろうか? そもそもそれが解決に繋がるんだろうか? 俺?俺の記憶を消す? いやいや、さすがにそれは無いや。。 もう、どうしたらいいか分からない。。 考えても答えなんて出ない。 ベッドに寝たまま天井を眺め続けた。 疲れているはずなのに、ちっとも睡魔は やってこなかった。 ・ ・ 「今日放課後どうする?」 「え?」 まるで一緒に過ごすことが決まっていたように 千里が言った。 ランチタイム。 多くの生徒が集まっているホールの、中心に近い テーブルに陣取って弁当やパンを食べていた。 「今日はバイトない日でしょ?俺んち来る?」 「いや、今日は……」 今日はタロウのマンションに行くつもりだった。 なんだかんだ1週間は会ってない。 「……彼と会うの?」 食べ終わった弁当箱を雑にしまいながら言う。 答えに困って黙りこむと、千里が笑った。 「分かりやす!晃太って嘘つけないよね~」 「何も言ってないじゃん」 「言えないってことは、正解ってことだろ?」 「どうだろね…」 「別れ話!俺、立ち会おうか?」 冗談なのか本気なのか分からない顔で笑いながら 千里が俺を見つめる。目は全然笑ってない。 目が反らせない。 その時本気で千里が怖いと思った。 「千里、そうゆうの しんどい…」 俺は一言だけ呟いて、席を立った。 言われた千里は呆然とテーブルを見つめたまま 固まってしまった。 堪えられなかったんだ。 千里の気持ちを理解しようと、歩み寄りたい 気持ちはあるものの 俺だって辛い。 とにかくもう少し時間が欲しかった。 そのどっち付かずの時間が 千里にとって苦痛だったとしても。

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