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20. 果てない夜の片隅に

久しぶりのタロウのマンションだ。 なんだか緊張する。 リビングで荷物を下ろして、ポケットから タロウの巾着を出して、ふーっとゆっくり 息を吹きかける。 「晃太!」 嬉しそうに顔をほころばせ、タロウが現れた。 「会いたかった」 自然とギュっと抱き合うと、不思議なほど 体と体がピッタリ重なる。 吸い付くような感覚が服の上からでも心地よくて いつまでもこうしていられそうだ。 「俺も…会いたかった」 言葉にしたら、何故だか涙が出そうだった。 ホッとしたのか、罪悪感のせいなのか 理由は全く分からない。 ただただ、ふわふわとした空気みたいな存在に 包まれて心がほぐれていくのを感じた。 「どうしたの?元気ない?」 「平気 … ちょっと寝不足なだけ」 「じゃぁ寝ようか」 タロウがニッコリ笑って、寝室に招く。 “寝よう”と言った言葉は嘘じゃなく 二人で横になって抱きあうと、タロウはただ 俺の頭をずっと撫でて、俺が眠れるように 黙っていた。 「タロウ…俺、千里とエッチしちゃった…」 「…うん」 「千里、俺を閉じ込めて誰にも 会わせたくないって」 「…うん」 「俺、どうしよう…」 「……うん…どうしようか…」 タロウは動揺どころか、怒る事も嘆くこともなく 小さな独り言のような声で呟いた。 「今はまだ千里君もいっぱいいっぱいなだけだよ 大丈夫、大丈夫」 タロウが背中を擦ってくれるのが 心地よくて、大事な話の途中なのに 瞼が重くなってくる。 「少し寝たら落ちつくよ ちゃんと起こしてあげるから 今日は寝なよ」 「やだ、寝たくない…寝なぃ…」 「ハイハイ」 タロウが頭を撫でながらクスクス笑ってた。 それこそ薬でも飲まされたかのように 俺は本当にそのままスッと眠ってしまった。。

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