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結局その日はそのままどっぷり寝て 満足に話せないまま帰宅した。 無理やり乗せられたタクシーで 俺は不機嫌だったけど、数時間タロウの 腕の中で眠ったら、スッキリして体も 軽くなってた。 ・ ・ 翌日千里は、学校を休んでいた。 昼にメッセージを送ったけれど 、返信はなく 放課後、バイトに行く前に携帯を見たら “風邪ひいちゃったみたい”と 一言 返信が来てた。 俺は何も考えずに、“お大事に”とだけ返し バイトに入った。 その日もいつもと変わらず、店は激込みに なることも客がゼロになることもなく 淡々と時間が過ぎ、バイトの終わる8時前に なったころ、突然千里が店に現れた。 「どうした?風邪だろ?」 「うん…でも別に大したこと無いんだ 半分サボり。 カフェラテちょうだい」 言いながら笑った顔は、いつもより青白くて とても千里の言ってる言葉は信じられなかった。 思わずおでこを触ってみる。 「熱は無さそうだな」 「だから平気だって、食欲ないだけ」 千里はクスクス笑って、いつもの1番奥の席に 座った。 俺は仕方なく、カウンターの裏に戻って 今日のランチに出していた卵ポタージュを マスターにもらい、千里のテーブルに運んだ。 単品でメニューには出てないから、特別に。 「…あ、これ…」 「千里もこれ好きだろ?今日たまたまあって ラッキーだったな」 「……いいの?」 「マスターのサービスだから」 そう言うと千里はカウンターの向こうのマスターに 軽く頭を下げた。 マスターは、何も言わずにクシャッと笑った。 「じゃぁ、後片付けてもう少しで終わりだから ゆっくり飲んで待ってて」 「おう! がんばれ~」 俺が残りの仕事をして、着替えるまで 千里は静かに文庫本を読んで待ってた。 俺がおまたせ~ と言って戻ると カップいっぱいのスープは空になっていた。 俺がそれをカウンターへ戻し、洗おうとすると マスターがそれを止めた。 「いいよ、いいよそれくらい お友達体調悪そうだし、早く帰りな」 俺と千里は、マスターにお礼を言って二人で 店を出た。

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