114 / 140

20. 3

「俺、そんな体調悪そう?」 「…んーまぁ顔色は悪いな なんでワザワザ出てきたの? 家の人心配してない?」 「黙っては出てきてないから平気」 俺たちは帰りの電車に乗り込んだ。 超満車とまではいかないけど、とても 座れる状態ではなく、二人でドア付近で 立ったまま乗ることになった。 「千里大丈夫?席譲ってもらう? 俺聞いてやろうか?」 「いいよ恥ずかしいっ たった二駅だし…」 「そ?ヤバそうだったら言えよ」 俺の言葉に千里が頷いて 制服の上に羽織っていたダッフルコートの 下の方をこっそり、ぎゅっと握ってきた。 俺も千里がふらついても平気なように、 片手は千里の腰の辺りをそっと支えた。 車内は乗客の熱気とエアコンのせいで 湿度が高く、元気な奴でも気分が悪く なりそうだ。 うっすら汗ばんで来るころ 俺たちの駅に到着した。 「あっつ~! 冬の満員電車 まじでキモいなっ」 「まあ、俺的には公然とくっついて乗れて ちょっとラッキー」 「…バーカ」 「はいはいバカですよ」 千里は薄く笑いながら言った。 「家まで送るよ」 改札を出て、俺が言うと、千里は首を振った。 「…いいよ、すぐだし… 俺より晃太の方が心配だよ 痴漢とか、お化けとか…」 千里は昨日、屋上で、俺の話を黙って 真剣に聞いてくれた。時々、信じられないって 表情を浮かべながらも、最後には、死者の存在を 信じたというよりも、俺が嘘をついている訳ない という所に落ち着いた感じだった。 そして最後に聞かれた。 「恋人は知ってるの?」 俺は、もちろん知ってると答えた。 その時の千里の顔は思い出すと辛くなる。 きゅっと唇を噛んで、悔しそうに? 寂しそうに? 屋上の手摺を強く握ってうつ向いてた。 「そんな事心配するなっ 俺は大丈夫だから、送るって」 「…本当に平気だよ。明日は学校行くから!」 「……ぉ、おう、じゃぁ明日な…」 「うん」 軽く手を振って、別れた。少し歩いて振り返ると 千里はまだ動かず、別れた時と同じ場所で 手を振ってた。 少し郊外にあるこの駅は、電車の本数も少なく 電車の発着する時間が過ぎると、人もまばらだ そんな駅のロータリーにポツンと立ち尽くす 千里の姿が、街灯の明かりの下で、頼りない 影のように見えて、不安を覚えた俺は 千里の所に走って戻った。

ともだちにシェアしよう!