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俺が駆け寄ると、千里がガシッと 俺の体を抱きしめた。 「ぉ、おいっ」 まばらとはいえ、駅にはちらほら人がいるし 視線が気になって慌てて離れる俺を見て 千里がケタケタ笑った。 きっと駅にいた通りかかりから見たら 高校生がふざけて、じゃれあってる様にしか 見えなかっただろう。 「ハグしたかったんだ」 千里が満足そうな顔で言った。 「じゃあ、もう満足しただろ帰るぞ!」 俺は千里の肩を押して、千里の家に向かって 歩き出す。 「ホントはキスしたいんだ でも、それは風邪だからやめとくよ」 「はいはい」 俺がそれを聞き流して、歩き続けると 横を歩く千里が足を止めた。 「晃太が恋人の家に行くんじゃないかと思って」 「は?」 「バイトが終わったら恋人と会うかもって そう思ったら、邪魔したくて… 家になんていられなくて」 「……千里」 「俺、変なんだ …… ごめん」 千里は額に手を当てて首を垂れた。 きっと立ってるのもダルいだろうに そんな体調の中、そんな事の為に電車に乗って… 千里が怖い… 怖いし、めんどくさいし これは俺の知ってる千里じゃない。 でも、不思議だ…。肩を震わせて、自分を責めて それでもこんなに俺を想ってる。 そんな姿を見ると胸が締め付けられるみたいに 熱くなった。 タロウに感じた気持ちに似てる。 可哀想? 愛しい? 俺はキョロキョロ回りを見て、誰もこちらを 気にしてない事を確認すると。 サッと、素早く千里の頬にキスをした。 千里が驚いて顔を上げて、俺と同じように 誰かに見られてないか、辺りを見回す。 その行動がとても健全で、理性的で 俺はホッとして笑った。 「焦りすぎっ」 「いや、だって…」 「誰も見てないし」 いつまでも歩き出せない千里の手を引っ張って 歩き出す。 「寒いから帰ろ 風邪悪化するよ」 「………うん」 街灯でそれなりに明るい住宅街を ゆっくり歩く。 「千里…俺、中途半端で ごめん」 「…なんだよ、謝られると怖いよ」 「でも、ちゃんと答えは出すから もう少しだけ …時間ちょうだい」 「……こたえ…」

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