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千里の事は嫌いじゃない。 小さい頃から、好きだから一緒にいられた。 今までは、その好きがどんなものなのかなんて 考える必要なんてなかった。 でもなんだかんだ言って、千里を受け入れて しまったのは俺だ。 今までのように、楽しいから、気持ちいいから そんな理由だけでは一緒にいられなくなって しまった。 少し前の俺ならタロウに 全て消してもらえばいいと思っただろう。 でも今は、千里の想いをそんなふうに 適当に扱いたくないと感じ始めてた。 Delボタンを押すように、簡単に。 そんな事していいわけない。 ー ちゃんと向き合って真剣に答えなきゃ それがどんな答えでも 千里を家の前まで送って、帰ろうと 振り返ると全身黒づくめのスーツで いつもの、やわらかい 笑顔をうかべたタロウが立っていた。 「家まで送るよ。 お化けとか出るかもしれないしね」 “お化け” なんてタロウの口から聞いたことない。 さっきの千里の言葉を真似たんだと すぐに気づいた。 俺は笑顔だけ返して、歩き出した。 タロウはその隣をピッタリ離れずついてくる。 「どこから見てたの?」 もう一度駅前まで戻り、その駅を通りすぎ また住宅街に入って行く頃、回りに誰も いないことを確認してから声をかけた。 「二人が駅から出てきたところ?かな」 「浮気現場を目撃って感じ?」 「何それ、晃太が誰と何しようと 気にしないって言ったじゃん」 「……そうだね」 「で、どうするの? 千里君の記憶からもう一度俺を消す? そしたら、晃太に恋人なんて居ない事になるし ひとまず問題は解決するんじゃない? 晃太が言わなければ、俺なんて居ないと 同じなんだからさ」 俺は首を振って答えた。 「…居ない事にはしない…もうしない」 「……そう言うと思った 晃太って変なとこ真面目だもんね」 「変なとこって言うな」 タロウはクスクス笑って、分かったよ、と つぶやいた。 それからちょっと寂しそうに俺を見て言った。 「じゃぁさ、俺が消えるよ」

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