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「仕事をしなくなって、ずっとフラフラして 世界をぼんやり眺めてたら、俺の時間は 止まってるって、改めて思ったよ」 「タロウ…」 ドキドキ、ザワザワ。本当は手がかじかむほど 寒いのに、嫌な汗が出てくる。 「俺は、ずっとこのままだけど 晃太は大人になって、見た目も変わってく 世界だって、俺が死神をしてる間に 全然 別物になっていった」 タロウが花火から顔を上げて、俺を見た。 「…置いてかれるのは…嫌だ…」 ポタリと落ちた線香花火が ほんの一瞬、オレンジの飴細工のような美しさで 地面で輝く。 何を思ったかタロウがそれに手を伸ばして 指先で触れた。 「あっつ……!」 「バカ!なにやってんだ」 タロウの腕をつかんで、ベランダの水道の 蛇口を勢いよくひねって流水につけた。 「熱いに決まってるだろ!」 「下に落ちたらもう熱くないと思って… キレイだったから…ビックリしたぁ」 俺は火の始末だけして、タロウを引っ張り 家の中に入った。 「見せて」 人差し指の先が、小さな水ぶくれになっていた。 「痛い…」 タロウが顔を歪める。 「火傷ってちょっとでもメチャ痛いよな」 俺はタロウをキッチンへ連れていって、 もう一度流水で冷した。 「……もう平気。どうせ明日には 消えるんだ…」 「いいからもう少し冷やしとけ」 俺はタロウの腕をつかんで そのまま指先を冷やし続けた。 「あ、俺、絆創膏持ってたかも。 とりあえずそれ、つけとくか」 バックの中から絆創膏を見つけ出して そっとタロウの指に巻いた。 「これで多少保護されたかな…」 「ありがと…」 タロウが嬉しそうに笑った。 「チューしたい」 言うと同時に俺の首に腕を巻き付けて キスしてきた。 それはお礼に軽くするようなものじゃなくて ねっとりと欲を孕んだ、腰にくるキス。 「…ね、ベッドいこ」 タロウに誘われるまま、もつれ合いながら 暗い寝室に入っていく。 ベッドに倒れ、俺の下を脱がせようとする タロウの手を止めた。 「今日が最後のつもり?」 タロウが止まったまま、視線をさ迷わせた。 「うん…」 その声を聞いた時、ああ、今日で全て 終わるんだ、と頭が真っ白になった。

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