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23. 壊れてしまう前に
死神が、その少年に初めて会ったのは
彼がまだ6歳の時だ。
ある事故がきっかけだった。
ひどい事故だった。
山道で居眠り運転をしていた車が、
対向車線を飛び出して、少年の乗っていた
車と正面衝突をした。
少年の乗った車は20メートル以上崖下に
転がり落ちて、前の席に乗っていた両親は
ほぼ即死だった。
死神はいつものように、二人を導く為に
やって来た。
その場に行くまでは、少年の存在を知らなかった
ただ男女2人の事故だと思っていたのだ。
少年は車外に投げ出され、一時は意識を
失ったものの、奇跡的に大怪我はしておらず
何が起こったのだろうと辺りを見回した。
そこにはすでに霊体となった両親がいた。
死神はその一部始終を見ていた。
幼い我が子を残して、突然自分の一生が
終わってしまって取り乱す両親と、1人残される
事をまだ理解できない子供。
今までも 何度か遭遇した場面。
死神は遠まきにその様子を眺めて、
少し落ち着いた頃に声をかけようと思った。
あまりさっさと引き離してしまうのは
哀れだと感じた、彼の少しばかりの
優しさだった。
でも、その日は少し様子が違った。
少年は明らかに、両親の言葉に相づちをうって
必死に涙を脱ぐって、別れを受け入れようと
していた。
ー ああ、あの子見えるんだ…。
あまり多くはないけれど、死者が見える
者が存在する。
小さな彼もその一人だった。
少し落ち着きを取り戻したのを見計らって
死神は死者の前に姿を現した。
嘆く二人をなだめて、決別の部屋へ導く。
溢れる涙を何度も拭って、少年は両親と
永遠の別れの瞬間をむかえた。
思った以上に子供は冷静だった。
彼は両親が消えた後、涙でいっぱいの
真っ赤な目でじっと死神を見てた。
鳶色の瞳が暗い森の中で、月のわずかな光を
集めて宝石のように光って見える。
ー ひょっとして…俺の事も見えてる?
死者が見える者が、死神まで見える訳ではない。
死神は自分に関わる時にだけ見える。
つまり自分が、死を迎える時だけ。
死ぬ予定のない彼に、死神が見えるはずは
ないのに、珍しいな、と思いながら
その場を去ろうとした。
生きている人間のお守りは自分の仕事では
ないから。
彼はこの暗い森の中で、1人きりで
動かなくなった両親のそばで
助けを待ち続けるのだ。
それはきっと彼にとって
永遠とも思える長い時間だろう。
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